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高音
第四章
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第四章

「あの女とはもう二度と歌わない!絶対にだ!」
「あの、しかしです」
「舞台はまだ続いてますよ」
「それにもう最後ですし」
「もうすぐですから」
「ここはです」
「気を取り直して」
 彼の付き人やスタッフ達がだった。その彼のところに来てだ。
 何とかだ。宥めようとするのだった。
「ほら、もうすぐカーテンコールですし」
「お客様が待っています」
「ですからここは」
「何とか」
「そうだね」
 彼等の必死の言葉を受けてだ。ようやくだった。
 コレッリも気を取り直してだ。立ち上がりだ。
 そのうえで舞台に戻った。何とか最後までニルソンと共演をやりきった。
 だがこのことはだ。多くの者が知ったのだった。
「まあコレッリもなあ」
「とにかく我儘だからな」
「すぐに怒るしな」
「彼にとってもいい薬だよ」
「全くだよ」
 こうだ。彼を知る多くの者が言うのだった。
「これで少しは抑えてくれればな」
「いいんだけれどな」
 こう願うことしきりだった。しかし。
 コレッリは相変わらずだった。だが冗談を言い合う歌手も出たりしてだ。幾分かはましになっていたのかも知れない。その彼が引退してからだ。
 あるインタヴューでだ。こんなことを言ったのだった。
「怖かった」
「怖かったんですか」
「そう、私は怖かった」
 こうだ。インタヴューをする記者に話したのだ。
「この高音だが」
「テノールのその声がですね」
「歌手になって最初の頃は中々出せなかった」
 声を出すのも技量だ。その技量がまだ不安定だったというのだ。
 それでだ。どうだったかというと。
「それを出すのが怖かった」
「出せていましたよ」
「出せていてもだ」
 それでもだというのだ。
「出す時に出せるかどうかはだ」
「それは別なんですね」
「そうだ。出そうとすると怖い」
 そうだった。コレッリは記者に話す。
「そして出るようになればなったで」
「それでも怖かったんですか」
「今度は何時出なくなるか。それも急に」
 そう思うとなのだった。彼は。
「舞台をしている途中にでも。そして録音を聴いていてもな」
「出ているかどうかですか」
「それが聴いていても気になっていた」
 コレッリはこのことを神経質にまで怯えていたのだ。そうだったのだ。
 それでなのだった。彼は。
「何時出なくなるのか考えてばかりだった。休日も」
「休日もですか」
「そのことばかり考えていた」
 そうなっていればだ。自然にだった。
「神経質になってしまっていた」
「大変だったんですね」
「次第に舞台が怖くなっていた」
 そのだ。活躍すべき、高音を出すべき舞台もだというのだ。
「今だからこのことを言える」
「そういうことだったんです
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