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月への航路
1話
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[1] 最後
 僕は昔から月に憧れていた。空に浮かぶ月。安心感を与えてくれるまん丸なときもあれば、心細いほどに細くなってしまう事もある。時には人間の目からは消えてしまう。そんな身近でありながら儚い存在であるあの衛星はなぜそこにあるんだろうか?手をかざせばつかめてしまうその見た目の小ささとは裏腹に、その直径は3474.3kmと、とてつもなく大きいものだ。地球にはそんなに大きな丸い物体は無い。この話はある夜僕が月へと行ったときの話だ。

 その夜は満月だった。風邪も吹かずひっそりとした庭の木が月明かりに照らされて窓からよく見える。普通よりは少し広い家の庭には木々の作る陰がその木々の形をはっきりと映し出していた。食後のタバコは美味しい。窓辺でタバコを吸いながら僕はボンヤリと月を眺めていた。月のクレーターが作る陰までもがはっきりと見えて僕は現実を逃避するように月に思いを馳せていた。そのときだった。何も無い空中にきらりと光るものを見た。なんだろう。あまり良くない目でメガネ越しにもう一度好く見ると確かにそれはあった。それは月に照らされた透明な階段だ。それもどうやら月へと向かっているようだった。そしてその階段は近くの山にまで降りているようだった。もしかしてそれを登っていけば月へと歩いて行けるんじゃ無いか?少し興奮しながら僕は二回から駆け下り山の麓へと向かった。


 月までの距離は384400km。歩いていくには遠すぎる。それでも僕はその階段が月へと続いているのなら登ってみたくて近くの山にやってきた。それは確かにあった。山のてっぺんに最初の一段がある。登ってみようかどうしようか僕が考えあぐねているとふと声に気づいた。
「あの…」
すごく小さい声だった。
「この階段を上るの?」
周りを見渡して声の主を探すとすぐに見つかった。月への階段なんて見つけなければ信じなかったかもしれない。そこには大好きな漫画の中のキャラクターがいた。
「この階段をのぼるの?」
イマコさんはもう一度尋ねてきた。少々戸惑いながらも僕は答えた。
「どうしようか迷っているんだ。」
「そう…」
そう答えてイマコさんは近づいてきた。イマコさんはとても小さい。多分身長120cmくらい。僕は彼女を見下ろしながら、一つの疑問を投げかけた。
「君はのぼるの?」
彼女は僕の問いかけに答えずに、ふと階段の方に目をやった。月への階段はちゃんとそこにある。
「うん」
階段を眺めながら彼女はそう答えた。この子はどこから来たんだろう?そんな疑問もあったけれど階段が現れた事が一番の不思議でその事を聞こうとは思わなかった。階段を上ってみたい。明日の予定とか帰って来れるのかとか色々悩んでは見たものの、いつの間にか上ってみたいという気持ちが大きくなっていた。
「僕ものぼるよ」
階段を見つめる彼女にそう告げた。

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