暁 〜小説投稿サイト〜
英雄王の再来
第7騎 クッカシャヴィー河追悼戦
[9/11]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
味を含むものである。これ以上の戦闘を避け、撤退せよという意味だろう。
 アトゥスの奇襲により混乱した味方の中で、私は“大元帥”と名乗るアトゥス兵を見逃していた。

「トゥテルベルイ客将、ウルティモア将軍より、右翼の残存兵を纏め、撤退させてほしいと指示がありました。」
一人の連絡兵が、そう言って駆け寄ってきた。すでに本陣近くに戻ってきていた為、この辺りで戦闘は起きていない。しかし、周りには怪我をし、腕や足が無く、血に塗れ、汗に汚れて息絶え絶えの者が多くいた。歩くことすらままならない、そのような感じなのだ。

「トゥテルベルイ客将・・?」
報告に答えず、呆然と見つめていた私を訝しげに、そして、遠慮気味に問い掛けてきた。私はそれに、何でもないように笑って答える。

「いや、何でもない。ケルトには、“了解した”と伝えて欲しい。」
その答えに連絡兵は、「畏まりました。」と答えて去って行った。
私もそれに習い、「自分の仕事をするか」と思い、馬を翻したその時、ふと目に付いた。燃え上がるように赤い色をした夕日が、大海に沈もうとしている。大海と大きな河口が繋がっている為に、それは一枚の絵のように、同じ紙に同じ絵具を零す。その眩しいほどに赤く染め上げられた夕日を後ろに控えさせ、同じく赤く染め上げられた河面の上を渡る騎兵の一陣がいた。ここからそうも遠くない距離である。一陣に掲げられる旗は、“黒地に白い百合”だ。我々を奇襲し、混乱させた一陣が、味方と合流しようと河を渡っているのだろう。見せ付けるばかりのその行動にも、もはやチェルバエニア皇国軍は反応さえ出来ない。
 ふと、その一陣の先頭を走る騎兵が、こちらを見たように見えた。夕日が彼らの後ろにある為、逆光になって、その顔は見えない。しかし、それは私の心を掴んだ。その騎兵はすぐに、前に振り戻って走り去っていったが、私はしばらく、その一点を見つめ続けた。目があった、その騎兵が居た場所を。



アトゥス王国暦358年5月3日 夜
港町 キルノトゥイユ
王子 エル・シュトラディール


 クッカシャヴィー河において、辛くも“勝利”を得たアトゥス王国軍は、河口付近にある港町キルノトゥイユに身を寄せた。キルノトゥイユは、半円形の港湾を持つ大きな港町で、アトゥス王国の海の玄関口と言える。人口は10万人を超え、一日に200隻の船が行き交う事もある。多国籍の人間がそれぞれの持ち寄った商品を売り買い、非常に賑やかで、夜を知らぬ街としても有名であった。
 アトゥス王国軍は、その街の外に陣を張り、軍を再集結させた。エルは、集結後すぐに怪我人の手当と、兵の休息を指示し、軍の主だった将を本陣へと集めた。ほんの数週間前に、アイナェル神殿で“初陣”の話をした者同士が、想像をもし得なかった状況で会い見えたのは、そんな時で
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ