第7騎 クッカシャヴィー河追悼戦
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たか分からなくなった時、鋭い音を立てて一本の矢が私の馬の脛骨に突き刺さった。それは一瞬で、避ける事など考える余地もなかったのだ。馬は倒れ、それと同時に私も地面へと叩き付けられた。咄嗟に身を翻し、身を構えた。しかし、降ってきたのは夕日に照らされる刃ではなく、若い少年の声であった。
「アレスセレフ、そろそろ時間だ。」
弓矢を手に持った、黒一色の甲冑を身に纏う騎士が“真紅の騎士”に声を掛けた。まだ、幼さが残るその顔は、鋭く、厳しい。
「エル様!申し訳ございません。」
“真紅の騎士”は、アレスセレフという名らしいが、エルと呼ばれるその人に謝罪した。そこで、疑問が生まれた。
「エル?まさか、エル・シュトラディールか!?」
私は、その疑問を口にした。それに応え、エルと呼ばれたその人は、弓矢を背負いながら、私に視線を向けた。
「そうですよ。お初にお目に掛かります、ウルティモア将軍。」
「な!?それならば!」
私は、大剣を振りかぶった。敵の大将が目の前にいるのだ。こんなチャンスはない。しかし、それは打ち砕かれる。夕日を反射させた白刃が、一瞬の赤い光を放って、私の剣を凄まじい力で弾いたのだ。その勢いに、私の大剣は宙に飛び、後ろ3フェルグ(3m)ほどの所に突き刺さった。私は呆然とし、剣を弾いた本人を眺めた。アレスセレフと何度も打ち合い、疲れていたとは言え、そんなにも簡単に剣を弾かれるだろうか。答えは否だ。“大剣のウルティモア”の名は伊達ではない。しかし、現実はそうではなかったのだ。
「行こうか、アレスセレフ。もう、チェルバエニア皇国も撤退する。そうでしょう、ウルティモア将軍?」
彼は、何も持たぬ私にそう問い掛けた。止めを刺そうともせずに。私は、彼の異様な威圧に、何も答えられない。それを気にも留めないように苦笑し、去って行った。
「ご無事ですか!?ウルティモア将軍!」
均衡を破るように、従卒が私の剣を拾い上げて走り寄ってきた。その顔には、驚きと戸惑いが見えた。恐らく、一部始終を見ていたのであろう。私とて、同じ顔をしているに違いないだろうが。
「・・・済まないな。」
「いえ・・」
「撤退する。前に出ているキルマも呼び戻せ。」
考えたいことは、いくつも頭に湧いてくるが、今はそんな時ではない。この戦闘は、負けである。これ以上の被害を出さない為には、統率した撤退行動が必要である。私は、従卒にそう命じて、自分も指揮に戻った。しかし、心のどこかで、この時の事が根を張り、彼を悩ませる事となる。
夕刻
クッカシャヴィー河 左岸
客将 キルマ・トゥテルベルイ
クッカシャヴィー河の河面を、赤い夕陽が染め上げる中、ラッパの音が鳴り響いた。先ほどより、撤退の指示は飛んではいたが、今度は“急速転進”の意
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