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英雄王の再来
第7騎 クッカシャヴィー河追悼戦
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ス王国軍の王国旗ではない。アトゥス王国の王族がそれぞれに持つ“御旗”だ。長子ノイエルンは、緑の地に金の太陽、次子ヒュセルは、赤の地に銀の獅子である。どちらでもないとすれば、末子エルの旗と言う事になる。彼はまだ、今年で13歳になるばかりであったはずだ。
 ケルトの疑問と不安は、味方の悲鳴と怒号に掻き消される事となる。奇襲を受けていた右翼の部隊が突破されたのだ。敵の血に塗れ、その甲冑を浅黒く染め上げた騎兵が、勢いを殺すこともなく、陣の内側を通り抜け、ケルトの直率する左翼に食い掛かった。もはや、撤退行動も混乱をきたし、戦闘は乱戦へと様相を変えつつあった。
 


同時刻
クッカシャヴィー河 右岸
アトゥス王国軍陣営


 痛みに我を忘れそうになるヴァデンス・ガルフは、その瞳に“黒地の旗に白い百合”を映していた。彼だけではない。クッカシャヴィー河で、血反吐と汗に塗れて戦っていたアトゥス兵は、それを見つめていたのである。一瞬、彼らの動きは止まった。まるで、時がその動きを止めたように。・・・そして、それは、唐突に破られる。

「うぉおおおおおおおおおおおっ!」
ヴァデンスは、叫んだ。人の声とも思えない程大きく、全てを振り切るように。その顔は、鬼のような形相に、脂汗をかき、身に纏う鎧を血で汚し、震える左手で長剣を持つ。右手は、止まる事のない鮮血を河に注ぎ続けている。しかし、それを何とも思わせないかのように、味方が居る方へと振り向いた。

「我らが始祖、アイナ王は!・・我らが英雄王、ルシウス王は!・・我らを見捨ててなどいなかった!立て、アトゥスの兵よ!“勝つ”時が来た!」

「おぉおおおおおおおおお!」
アトゥス兵は、満身創痍の大元帥の言葉に、叫ぶことで答えた。地響きのように空気を震わせ、それぞれに“思い”を灯す。彼らは失いかけていたものを、瞳に宿らせた。武器を握り直し、呼吸を整え、敵を睨みつける。

「全軍突撃!」
檄が飛ばされ、息を吹き返したアトゥス兵は、猛然とチェルバエニア皇国軍に突き掛かった。その勢いは、彼らの意思の強さを表すように、簡単に崩せるものではなかった。


 戦場は、混乱の様相を見せている。先程までのチェルバエニア皇国軍に傾きつつあった戦況は、エルの奇襲により引き戻された。今やその均衡は、少しの綻びで傾くほど、脆くなっていた。

「くそっ!何という勢いだ!」
ウルティモア将軍は、そう言いながらも、両の手に持つ剣を右に、左に振り回し、血飛沫を撒き散らす。人の身の丈ほどもある大剣を、重さを感じさせない勢いで振り回す彼は、他国に“大剣のウルティモア”と恐れられている。その細い身体から、そのような大剣を振るう力がどこにあるのかと、皆が疑問に思っているのだが。
 奇襲を掛けてきた一陣が、右翼を突破して左翼に突
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