第7騎 クッカシャヴィー河追悼戦
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の身の毛のよだつ笑い声が響いた。甲高く、耳に、心に突き刺さるそれは、皆の心に再び恐怖を植え付けたのだ。
「へ、ヘルセント・デューナー参謀長・・・そんな、どうして。」
総督のその問いかけに、地面に横たわる“人であったもの”は、沈黙で答えたのである。
アトゥス王国歴358年5月3日 昼過ぎ
クッカシャヴィー河 左岸
チェルバエニア皇国軍陣営 客将 キルマ・トゥテルベルイ
私は、この戦場で“怒り”に心を奪われていた。水飛沫の代わりに、血飛沫が飛び散り、潮風の代わりに、血と汗の匂いが吹き抜けようとも、それは濁る事はなかった。
こんなものではない。これが、そうなわけがない・・・そんな気持ちが私の思考を支配し、手に持つ白く輝く長剣を、右に振り、左に振り、その色を赤色に染め上げていった。今も、“アトゥス王国軍大元帥”と名乗る人間を、永遠にその肩書を名乗らせなくする直前だ。・・・しかし、それは為されなかった。私の心を支配する“怒り”を一瞬で打ち消すほどの光景が、その心に飛び込んできたのである。
黒地の旗に、白い百合の花。あれは、“何ものにも染まらぬ事を意味し、唯一の希望たる事を誓う旗・・・その旗に、私は心を奪われた。
「全軍突撃!」
エル・シュトラディールの檄と共に、5百騎の騎兵が乱れることなく、槍を揃えてチェルバエニア皇国軍の右翼へと突撃した。5百騎の騎兵が、大声で相手を威嚇しながら、粉塵を舞い上げ、目にも止まらぬ速さで押し寄せる。チェルバエニア兵は、恐怖に慄いた。これほどまでに、乱れることなく、凄まじい速さで押し寄せてくる騎兵など見た事がなかったのだ。もしも、英雄王の御代を知る者が居たとすれば、こう思うに違いない・・・「あぁ、これこそ“アトゥスの騎兵”なり」、と。
ヴァデンス率いるアトゥス軍の後退により、全面的な攻勢に出ていたチェルバエニア皇国軍は、その横撃によって浮足立った。陣形の中央が突出し、矢尻のような陣形に成っていた為、横撃に弱く、陣形は崩れ始める。
「突出している中央を戻せ!崩されるぞ!」
ケルト・ウルティモア将軍は、素早く檄を飛ばした。それと同時に、彼が直率する左翼の5千の兵に“ゆっくりと後退する事”を指示する。本来であれば、このような場合はすぐに後退し、陣容を立て直したい。しかし、中央が突出している為、今それを行えば、中央だけが取り残される危険性があったのだ。ケルトは、苦々しい気持ちに自らの唇を噛んだ。敵の援軍の可能性を考えない彼ではなかったが、その援軍の数が少ない為に発見が遅れ、狙い澄まされたかのような最悪の時勢に“奇襲”されたのである。
「まさか・・・狙った訳ではないだろうな。」
そんな事がケルトの頭を過った。援軍で来た敵の一陣は、黒地の旗に、白い百合が咲いている。それは、アトゥ
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