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英雄王の再来
第7騎 クッカシャヴィー河追悼戦
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ものではないか、そう思ったほどだ。そして、その“狂気”が演出する“狂演の劇”に、自ら飛び込む者がいた。

「お、お久しゅうございます。バショーセル・トルディ将軍閣下。」
その人物、ミルディス州総督テリール・シェルコットは、将軍の前に膝を付き、頭を垂れた。彼の声に、緊張と怯えが感じられる。無理もない。彼は、先の戦いで失態を犯したのだ。撤退する軍隊行動の中、自軍を前進させ混乱を招いた。それは、恐らく功を焦ったからに違いない。将軍は、今回の戦闘での結果を満足されていない。むしろ、怒りを感じられていた。その一因と言える人物なのだから、どうなるか分からない。しかし、その将軍の反応は、誰もが予想しないものだった。

「よもや、本物とは。・・・ふ、ふふ。ふはははははは!」
彼は、笑った。身の毛もよだつ、悪魔の笑いだ。その笑いに、その場にいた皆が身を固くした。

「も、申し訳ございません。先の戦いでは、ご期待に沿えず・・・」

「そう言う事を聞きたいのでないの。」
総督の話を折るように、将軍は強い口調で遮る。

「・・・どの面下げて、帰ってきたのか。」
その言葉に、ふと、将軍の眼を見た私は後悔した。吹雪に吹きつけられたように体の温度が下がり、さらには凍り付いて動かない。総督を見下ろすその眼は、人の眼ではない。

「あ、いえ・・・・」

「・・・どの面?」
空気が張り詰めている。限界まで引き合う縄のように、震え、音を立て、今にも切れそうな様相を見せる。総督は、将軍に目を合わせる事も出来ず、ただただ、身体を震わせていた。その様子に総督は、飽きたように一つ溜息を付くと、“最後の審判”の声を上げた。

「もう、いいわ。・・首を撥ねなさい。」

「い、いやっ・・」
総督の白い顔は、青ざめた。血の気が引き、まるで死人のような顔だ。彼だけではない、当事者ではない私たちも、死人のような顔をしていたに違いない。それでも総督は、その死人の顔のまま、大声を張り上げた。自分の罪を認めぬ、下賤な罪人の様に。

「と、トルディ将軍!じ、実は、お渡ししたいものがありまして!」
と、そう言って、総督は懐から一枚の羊皮紙を取り出した。綺麗なものではない。折れ曲がり、端が少しばかり欠けている。・・・これを、総督に渡したい?可笑しな話だ。助命の為の下手な口実か。そう思いつつも、総督から羊皮紙を受け取り、将軍へと渡す。

「これは・・・本物なの?」
将軍の顔は、相手を計るような色を見せた。対照的に、総督の顔は勝気の色を見せ、その白色に赤色を指している。どういう事か、あの一枚の羊皮紙に何が書かれていたのか。その2人以外の人間は、その疑問を心に灯す。

「本物で御座います。トルティヤで苦い汁を嘗めさせられたエル・シュトラディールの詳細な行軍路です。それも
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