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英雄王の再来
第7騎 クッカシャヴィー河追悼戦
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にか分からないが、何か見えないものに圧迫されるようにはっきりと答えられずにいた。しかし、その言動は、“彼女”の琴線に触れるような行為である。

「早く言いなさいよ!」

「ひっ!」
苛烈さを見せる恫喝に、彼は怯えた表情を見せる。

「・・・・ふふ、良いわぁ。その顔、ゾクゾクしちゃう。もっと、もっと見せて頂戴。」
舌で唇を舐めずり、口から空気を細く噴き出すように、笑う。恍惚に溺れるような表情で、その兵を凝視している。

「あ、ああ・・。い、いえ・・ミルディス州総督、テリール・シェルコットを名乗る者が面会を求めております!」
怯えを、恐怖を、打ち消すように一気に言い捲る。その言葉は、バショーセルの異様な雰囲気とは違い、別の意味で場を静寂で包んだ。

「・・・何ですって?」

「しぇ、シェルコット総督を名乗る人物、です。」
バショーセルの疑問も、当前である。ミルディス州総督テリール・シェルコットは、先の戦闘で戦死扱いとなっていた。彼は、アトゥス王国軍の“奇策”による混乱で、味方が撤退行動をしていた中、彼の指揮するミルディス州軍を前進させ、混乱の拡大を招いた。その後、敵将に長剣で斬りつけられ、落馬するところが目撃されており、死んだものと、皆、思っていたのである。

「ふふ、ふふふ。・・はははは!」
甲高い笑い声が響いた。身の毛もよだつ、悪魔の笑いのような。皆が、バショーセルへと視線を向ける。その外見に、笑い声に、ここにいた将校達は、本物の悪魔を見たような錯覚に囚われたに違いない。その悪魔は、一頻り笑い終わると、再び恐怖で怯える連絡兵に囁いた。

「いいわ。どの面下げて来たのか、それとも、テリール・シェルコットを名乗る不届き者なのか、会って確かめましょう。連れてきなさい。」

「・・・・」
連絡兵は、言葉を失ったかのように声を発しない。ただ、その怯える表情を勢いよく縦に何度も振って、走り去るように出て行った。

「ふふ。どちらにしても・・・こう、成るしかないのだから・・・ね。」
バショーセルはそう言って、手に持っていた透明な筒を、愛おしそうに、ゆっくりと撫でた。



同時刻
アカイア王国軍陣営
従卒 エーリク・キステリナル


 戦場は、恐ろしいものだった。人肉が飛び散り、清い雨の代わりに、浅黒く赤い雨が降る。鉄錆のような匂いと、嗚咽を誘う肉の焼け焦げる匂いが充満し、聞くに堪えない悲鳴と怒号が鳴り響いて、天使と悪魔がそれぞれに歌い連ねるのだ。自分が踏み締めてきた道など、刹那の輝きで消え失せる。そんな“狂演の劇”だった。
 しかし、それよりも恐ろしいモノがあった。それは、その“狂演の劇”を仕切る演出家、その人である。男性にも関わらず、女性のような格好をしていた彼、もとい彼女は、“狂気”の塊のその
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