第7騎 クッカシャヴィー河追悼戦
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第7騎 クッカシャヴィー河追悼戦
アトゥス王国暦358年5月3日 昼過ぎ
アカイア王国軍陣営
後世に伝えられる“トルティヤ平原迎撃戦”の悲運な敗者と記されるアカイア王国南方方面軍は、その平原の北側に陣を敷いてから3日目を迎えていた。天高く煌々と輝く太陽とは打って変わり、その兵士達の士気は下がる一方である。それは、指揮官たる彼、もとい彼女も変わりない事であった。
「はぁ。」
その指揮官、第一等将軍バショーセル・トルディは、本日、何度目か分からぬ溜息を付いてみせた。目を閉じ、顔に手を当てている。その光景に、彼の部下達は一言も話せずにいた。その理由は、至って明確である。
アトゥス王国軍の奇襲を受けて撤退していたアカイア王国軍は、各隊に被害報告を提出させ、それを集計した。その内容に、将軍たちは驚愕と呆れ、そして憐憫を感じたのである。今回の戦で動員した総数は、アカイア王国南方方面軍5万、ミルディス州軍4千であるが、撤退し、再集結した残数は、アカイア王国南方方面軍4万8千、ミルディス州軍1千2百であったのだ。その被害総数は、5千8百。しかも、その内の約7割はミルディス州軍の被害だった。つまり、彼らは、アトゥス軍の“奇策”にただ混乱し、実質的な被害を見ず、相対的な被害に目を取られ、その指揮統率が出来ぬままに敗退したのである。事実、アカイア王国軍本隊の被害の半分は、敵の奇襲と馬による突撃で混乱する中で、我先に逃げようとした者の馬に踏まれたのである。敵ではなく、味方に。
この事は、彼らの士気を大きく下げ、さらには、トルディ将軍の怒りも一塩であった。敗戦の責任は、一重に最高指揮官であるバショーセル・トルディに起因するのが、軍の常ではある。しかし、彼、もとい彼女にとって、今回の敗戦は納得の出来ないものであったのだ。一頻り、“彼女”のお叱りを受けた将校達は、“彼女”の前にただ沈黙に沈み、“場が何とか好転しないか”、そう考えていた。そんな彼らの願いを叶えたかどうか分からないが、一筋の光明が彼らに降り注いだのである。
「と、トルディ様、面会を申し出ている者がおります。」
連絡兵が、焦りと戸惑いを含んだ顔で本陣に駆け込んできた。その言葉に、この場にいる一同は、訝しい表情を見せる。それもそのはずで、指揮官にお目通りできる身分の主だった将校は、既に集まっているからである。
「・・・誰よ、それ?」
不機嫌さを微塵も隠そうとしない声だった。化粧をして、綺麗に飾っている顔でさえも、魔を帯びているように見えたほどだ。“彼女”は、手に、緑色の液体が入った透明な筒を持っていた。その筒に入った何かの塊を、纏わりつくような目で見つめている。
「そ、それが・・・」
バショーセルの雰囲気に怯えているのか、伝えようとしている事になのか、どちらか
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