Episode26:敗北と事の終わり
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たな侵入者を見据える。
「…十文字、克人……」
その存在は大亜連合の魔法師である龍でも知っていた。日本の代表的な魔法名家、その最強の一角を担う十文字家の長男にして、次期当主。まだ高校生にして、戦争に兵士として出兵した過去もありそれなりの警戒を上は促していたと龍は記憶している。
そんな男が、今、目の前にいる。そんな男と、これから戦うことができる、殺すことができる。目先の脅威を排除することを忘れて、龍の体は悦びで震えていた。だが、そろそろ限界のギリギリでもあった。
「…ふむ、仕方あるまい。今回は撤退するとしよう」
今ここで精神が入れ替わってしまったとして、果たしてこの男からあの甘々な娘が逃げられるのだろうか。そう判断してのことだった。
全身から悲しみのオーラを出しながら背を向けた龍に、克人はしかし追うことはしなかった。
それよりもまず、隼人の保護のほうが先だった。
去って行った龍の背中が見えなくなって、克人は自身の端末に手をかけた。
「…七草か。ああ、俺だ。九十九が倒れているのを発見した。俺は病院へ寄って行くから、すまないが少し遅れる…ああ、大丈夫だ。出血はまあまあだが、命に関わるほどではない。ああ、ではな」
端末で真由美に報告してから、克人は隼人をゆっくりと抱き上げた。
意識を失った隼人の表情は、とても苦しげだった。
☆★☆★
今回の一連の事件の全貌は、ほぼ全てが十師族である十文字家によって握り潰された。
勿論、その十文字家の次期当主が在学している一校が不利になる報告もされておらず、一校を襲ったテロリストの中に、一校生はいなかったことになった。また、紗耶香のスパイ未遂も、同様に公になることはなかった。
そのことを、隼人はぼーっとしながら鈴音から聞いた。
あの一件から、三日が経っていた。隼人の怪我は思ったよりも酷かったようで、今週までは入院生活が続くことになるようだ。
「…それで、なぜ九十九さんが倒れていたのか。教えてくれますか?」
その言葉に、隼人の意識は現実に引き戻される。
そう。自分は、あの男に負けたのだ。既に疲労していた、精神的に不安定だったなど、言い訳はいくらでもあった。だが、隼人の心の中には悔しさしかない。
そもそも、精神が不安定だったのは確実に自分の落ち度だ。あの程度の言葉で揺らいでしまっているようでは、いつ弱みに付け込まれてしまうか分かったもんじゃない。
だが、隼人が抱えるこの問題が、隼人自身が思うよりも根深く、そして多くの人の思惑が絡み合っていることに気づくのは、まだ先のことであった。
「…ブランシュの複数の構成員と戦闘したんですよ。なんとか全員倒せましたけど、流石にキャストジャミングまみれの中で戦うのは骨が折れました」
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