Episode26:敗北と事の終わり
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コツコツと革製の靴が床を打つ音のみが響く。
摩利に急用ができたと連絡し、龍舜秦の言っていた丘陵地帯にある廃工場の場所を確認して、隼人は端末の電源を落とした。
ポケットに端末を仕舞い込む隼人の目は、相変わらず暗い。
「……」
いつの間にか早歩きになっていたのか、足音はカツカツと忙しない。たかが言葉にここまで動揺している自分が情けなくて、隼人は唇を噛んだ。
それでも、達也の言葉がグルグルと頭の中を回る。
隼人が現在のように魔法が使えるのは、ある事件が切っ掛けとなっている。とあるパーティでの、まるで戦争のような争いの中で、隼人の魔法の才能は目覚め、そして、全てを消し去ってしまった。
あの時のことを、隼人は昨日のことのように思い出すことができる。
怒り、憎しみに身を任せ、なにもかもを消し去り、奪い去ったあの瞬間のことを。
その命を消してしまった罪を背負って、隼人はこれまで戦ってきた。だが、彼の中で奴らに対する憎しみが消えたわけがない。消えるはずがないのだ。
隼人は人殺しが嫌いだ。だが、九十九家への依頼で犯罪組織を潰した後、隼人はよく気づかぬ内に笑っていることがあった。
奴らと同じ犯罪者を殺すことに、悦びを感じている自分がいたのだ。
「……くそ…」
頭の中で否定しても、無意識のうちに隼人は自分に問いかけている。
『俺は所詮、奴らと同じなのではないか』と。
「違う……」
何度否定して、違うと叫んで、感情を拒絶しても、彼は、笑みを浮かべて人を殺してきた。
「違う…!!」
「九十九さん…?」
静かな声音が、隼人の耳に届いた。
「市原、先輩…?」
振り返った先にいたのは、冷静な表情の裏に心配の色を浮かべた鈴音だった。恐らく、偶然見つけた知り合いが苦しそうにしていたから声をかけたのだろう、と隼人はどこか冷静になった頭で分析した。
「顔色が悪いようですが、大丈夫ですか?」
「え、ええ……少し、気分が悪くなっただけなんで大丈夫です」
嫌なことを思い出して、と心の中で付け足す。無用な心配を、他人である鈴音にはかけたくなかった。
「……そうですか。それで、そのような状態でどこへ行くつもりですか?」
「…っ!」
まるで自分の行き先を知っているような口ぶりに、隼人の目が見開かれた。
だが勿論、鈴音がそんなことを知っているはずはなく。
存外、わかりやすい隼人に鈴音は溜息をつくのだった。
「まったく…今の状態で行ったら、無駄な怪我をするだけですよ」
「…忠告ありがとうございます。けど、約束があるんで行かなきゃならないんですよ」
いつの間にか、鈴音が一瞬見た彼の影は薄れて消えていた。自分を見つめる彼の瞳は、しっかりと自分を捉え
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