第百六十二話 ならず聖その十
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「すぐに陣を去った方がよいと」
「ですな、陣に石川殿はおられなかった」
「他の方々も」
「ここで誰も見つからなければ言い逃れが出来る」
松永は笑って言う。
「だからこそじゃ」
「今はですな」
「逃れてもらいますか」
「殿は鋭い方じゃ」
信長のこのことはだ、松永もよくわかっていた。それで今は彼は余裕よりも鋭いものを見せたうえで言うのだった。
「既に石川殿以外の方もおられると思っておる」
「若し楯岡殿や音羽殿まで見つかれば」
「それで」
「殿は百地殿を攻められる」
それは当然の流れだというのだ。
「だから今はな」
「去ってもらいですか」
「影を消しますか」
「無論百地殿もじゃ」
彼もまたというのだ。
「去ってもらおう」
「ですが殿」
ここでだ、家臣の一人が松永に囁いた。
「ここで石川殿が消えられても」
「それでもじゃな」
「石川殿がおられたことは事実」
このことは既に確かめられていた、言い逃れは出来ないというのだ。
「殿は顕如殿に伊賀者と結託しているか聞かれるでしょう」
「しかし顕如殿は知らぬ」
本願寺の門徒の中に伊賀者がいるということはだ。
「我等が勝手に紛れ込んでいることじゃ」
「そして織田家と戦っているだけのこと」
「伊賀者が勝手にしたことじゃ」
「そのことがわかれば」
「殿は伊賀を攻められる」
百地のいるその場所をだというのだ。
「そうなりますが」
「そうじゃな、しかしそれは今ではない」
「だからよいのですか」
「今我等の里の一つを滅ぼされてはならぬ」
彼等のそこをだとだ、松永は言うのだ。
「だからじゃ」
「殿が気付かれる時お遅くしますか」
「そうよ、時間稼ぎじゃ」
それを行うというのだ。
「今はな」
「わかりました、それでは」
「流石にそうなってはな」
松永はあの笑みを浮かべた、彼がいつも浮かべる明るい感じだがそれでいて掴みどころのない怪しい笑みに。
「難儀じゃからのう」
「そこでそう仰るとは」
「殿らしくない」
「ははは、わしも一族じゃぞ」
だからだとだ、笑って言う松永だった。
「十二家の一つじゃ」
「それ故にですな」
「ここはですか」
「殿も動かれますか」
「ここは」
「うむ、そうする」
こう言ってだ、そしてだった。
松永は密かに人を送った、その者は影の様に陣中にいる石川の後ろに出てそっと囁いたのだった。
「我が殿からのお伝えです」
「何じゃ」
「はい、織田殿が探られるとのことなので」
「陣中をか」
「今のうちにです。ここは」
「去れというのじゃな」
「左様です」
こう石川に伝えるのだった、松永からの言葉を。
「陣中に織田家の忍が来ぬうちに」
「今にも来るな」
「既に石川殿のこ
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