第一話 友を得る白馬
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なのでしょうな」
言い終わると趙雲の表情は急に昏く、重いモノに変わった。自身が何をしているのか、理解した上で他人に押し付ける事がどれほどのモノなのか、彼女は俺に言い聞かせるように紡いでいく。
「あなたはきっと運が良かったのだ。目の前で非道の輩の手によって死に追い遣られる誰かを自分ならば救える、そういう事態に出くわさなかったのでしょう。もし、か弱い少女が暴漢達に非道の限りを尽くされていて、救うには相手を幾人か殺すしかないとすれば……如何致しますかな?」
言われて想像を膨らませてみた。今の俺の力で誰かを救えるとしたら……俺は……
「多分、相手を殺すだろう。断罪者気取りで」
冷たい輝きを宿した瞳は俺を再び射抜いた。ゾクリと肌が泡立つ。きっと彼女はそれを既に何度も経験していて、俺の甘さをも見抜いている。
「例え獣に落ちたモノであろうと、人を殺して誰かを救いたいと願うなら……この先、旅を続けるとしても、何処かへ士官するとしても、自分が未経験の事態に陥るやもしれない事は頭に入れておいてくだされ。人を殺す、口で言うのは簡単だが、現実は凍土のように冷たく厳しいモノだ」
無意識の内に生唾を呑み込んだ。テレビで不幸な出来事として、教科書で歴史の中で……俺はそんなモノでしかその行いを知らない。
その時に何が起こるのか、自分がどういった感情を持つのか、想像も出来なかった。
じっと杯の中で揺れる液体を眺めて考えても、自分の心に答えは浮かばなかった。
突然、趙雲はふっと優しい息を付いた。
「武人の血が騒ぐ事も無いとすれば、力あるモノだからとて禁忌を行う事もありますまい。ただ、武のある無しに関わらず、自分が何を為したいかを忘れなければ、それが自ずと芯となって支えてくれるのは万事に於いて言える事。手を紅色に染め上げても為さんとするモノがあるのかどうかが武人としての心の在り方、と私の場合は言えますな」
グイと杯を傾けて彼女は熱い息を漏らした。俺も同じように杯を空け、彼女と自分のモノに酒を満たしていく。
「……ありがとう。すまないな」
「いえいえ。私も自分の欲を押し付けたゆえ。申し訳ない」
彼女の人となりが少しだけ見えた気がした。
何度も何度も、悩んで、悔やんで、重責を乗り越えてきたんだろう。自分が誰かを救いたいからと。同じような力を持った他人にも、誰かを救ってくれと求めてしまう程に。
心の高さ、とでも言うんだろうか。自分というモノをしっかり持ってる彼女は、俺にとって凄く羨ましいと感じた。
気付けば彼女の事をじっと見つめていた。趙雲は酒を飲みながらにやりと意地悪く笑った。
「おや? その熱い視線……私も罪な女の仲間入りが出来そうだ」
一瞬呆気にとられる。だが、彼女が言外に伝えて
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