三十三 崖底蛙
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巻物、役に立つのか?」
多由也と一悶着起こした後、宿に辿り着くなり香燐はナルトに猫撫で声で話しかけた。
ナルトに頼まれ事をされていた多由也への反発。自分も役に立つ事をさりげなくアピールしている彼女に気づかず、ナルトは頷きを返す。
「勿論。香燐のおかげで彼の起きる時間がわかったんだから」
素直に礼を述べるナルトに香燐は嬉しげに頬を染めた。だがすぐさま「けどあの巻物、別に変わったところなんて見当たらなかったぜ」と怪訝な表情を浮かべる。
木ノ葉の里に帰還してすぐに香燐はナルトに頼まれ、月光ハヤテを木ノ葉病院へ連れて行った。病院前に置き、呼び鈴を鳴らしてすぐ身を隠したため、自身の姿は見られていない。
その際、ハヤテの懐から落ちた巻物を香燐は咄嗟に拾い上げた。その事を包み隠さず話し、ナルトに巻物を手渡したところ、彼の顔色が変わったのだ。その瞬間を香燐はよく憶えている。
「試験官が『地の書』を持っていても何等不思議じゃねえだろ。何処が役に立つんだ?」
自らも中忍試験を受けていた香燐は訝しげに首を傾げた。中忍第二試験の題材となる『天地』の巻物の一つを試験官だった月光ハヤテが所用していてもおかしくはない。
「コレが今回の試験に使われたものならな」
香燐から渡された『地の書』を懐から僅かに取り出して、ナルトは意味ありげな発言をした。そのまま窓から外を覗く。一時の静寂の中、宿の天井裏から微かに鼠の足音が聞こえた。
ナルトから問い質すのを諦めた香燐だが、これだけは言っておかねば、と口を開く。
「…ところで。多由也とかいう女の時もそうだったけど、この会話、【念華微笑】の術でしたほうが良かったんじゃないか?」
誰かに聞かれたら…、と懸念する彼女に、ナルトは視線を向けた。一瞬天井を仰ぎ、静かに微笑する。
「いいんだよ」
(わざと教えているのだから)
耳元で、ぴちょんと澄んだ水音がした。
薄暗い天井に渡された幾重もの鉄パイプ。錆ついたその一部から落ちる水滴が、彼女の傍らで円を描いた。
薄暗い飴色の液体の中で、ナルは目覚めた。床を満たす水上で仰向けに横たわる。天井を仰ぐと、鉄パイプから滴る雫が見えた。
ゆっくり身を起こし、ナルは周囲を見渡した。足首まで浸かる水面が再び円を描く。やがて風とは似ても似つかぬ獣の唸り声が廊の奥から聞こえてきた。
声を頼りに廊下を伝ってゆく。廊下伝いの道中で、ナルは何度も唾を呑んだ。物凄い威圧感が全身にひしひしと突き刺さる。同時に、見知ったチャクラだ、と直感が囁いた。
薄暗い廊下の向こう。明るい光と、そしてソコにいるであろう声の主の許へ、ナルは足を踏み入れる。歩く度に撥ねる水の音がやけに大きく響いた。
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