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渦巻く滄海 紅き空 【上】
三十三 崖底蛙
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ったら自分でなんとかしてみせろ」
そうして彼女の額を思い切り突いた。



















浮遊感。

無重力状態のまま、ナルは後ろを振り返った。そこはくすんだ銀の光を帯びた岩肌が複雑に絡み合う、目も眩む断崖絶壁だった。
一瞬空中に留まる。直後、辺りはめまぐるしく回転し、ナルの身体は崖下へ吸い込まれた。

「うわぁああぁああああぁ――――――――ッッ!!!!」

何が起こったのかわからぬまま、崖底へ真っ逆さまに墜ちてゆく。
上下左右、遠近高低といった方向感覚が失われ、前方の深い闇にナルは引き寄せられていった。正気を保とうとするが、耳元で轟々とした異様な風の音が彼女の耳を圧倒する。辛うじて維持していた思考力が『死ぬ!!』と泣き喚いていた。

チャクラを練る。パッと頭に浮かんだ【口寄せの術】の印を無意識に彼女は結んだ。途端、ポンッといった軽い破裂音と共に小さな煙が立ち上る。煙の中で「な、なんじゃぁ!?」と驚いた声がした。
ガマ竜ではない。小さなじいちゃん蛙が驚愕の表情を浮かべている。ナルは慌ててその蛙を掻き抱いた。
「ごめんってばよ!!」
唸る風の中で謝る。じいちゃん蛙を庇うようにナルはその身を縮こませた。
眼前の光景が渦と化し、その中心を加速しながら突き進む。連なった岩肌の一つがナルの目の端に映った。
(これにつかまらなきゃ…じいちゃん蛙もオレも、死ぬ!)


必死にチャクラを練る。四肢に力を込め、タイミングを見計らい、手を伸ばす。指先が岩肌の一つを確かに捉えた。
(今だ!!)






つるり、と滑る。ナルの意図を裏切って、岩肌は彼女がしがみつくのを拒んだ。
険しく切り立っているにも拘らず、絶壁は滝の水滴でつるつるとしているのだ。岩壁から滴る雫が視界の中でキラキラと踊る。全身に降り注ぐその露の玉を、ナルは愕然と見つめた。


自身の叫び声が遠くで聞こえる。バラバラになった意識の中でナルは他人事のように(ああ。死ぬんだ)と確信した。
だが胸に抱き抱えた蛙の存在が、彼女の正気を呼び戻す。
(じいちゃん蛙だけは…ッ!)
突然口寄せしてしまった蛙だけは助けなければならない。使命感に駆られ、ナルは再びチャクラを練った。
だが彼女のチャクラはもう、とうに枯渇していた。今しがたの【口寄せの術】でほとんど使い切ってしまったのだ。






目の前が真っ暗になる。
刹那、前方に広がる暗黒の果てから、ナルは誰かの声を聞いた。

《アイツに従うわけではないが、お前が死ぬとわしも死ぬからなぁ…》

ドクン、と心臓が高鳴った。



















「ダーリン。この間渡したあの
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