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ソードアート・オンライン リング・オブ・ハート
12:挑発
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これほどまでに軽い両手武器を、俺は触ったことも見たことも無い。
 武器自体の質量は俺の片手直剣の倍はあるはずだが、その重量はそれの半分も無い。片方の先端には大きな刃と鋭い副槍が付いているので、ちゃんと刃先に重量を感じるものの、如何(いかん)せん両手で握る武器のせいか、心許(こころもと)なさささえ感じてしまうほどの軽量感だ。
 リズベットは俺の答えに頷き、マーブルさんへと目を移らせた。

「斧を鍛える場合、普通ならリーチや重さ、そして攻撃力を重視して破壊力を上げるのが主なのに、なぜこんなに軽いんですか? SAOじゃ《月鉱石》は硬度が高い割りにその羽みたいな軽さがウリで、殆ど片手武器にしか用いられない鉱石だし……。それに、キリトは気付いてなかったみたいだけれど、柄もやたら細くて無駄な重量を節減した節が見られます。全長も一般的な槍斧よりも随分と短い160センチ程度でした。攻撃力も、素材に恵まれながらも、取り分け高い数値じゃありません。なぜ……この斧はリーチや重さ、そして攻撃力を犠牲にしてまで、わざわざ本来のビルドとは真逆の軽量化を徹底的なまでに(はか)っているんですか?」

 それにマーブルは、指先だけの音の無い拍手を送った。

「うーん、ご明察♪ やっぱり本場の人は、何も言わなくたって(つまび)らかにしちゃうものねー」

 うんうんと何度か軽く頷き、感心する様に自己納得している。

「質問に答えるわね。そこまでその斧槍が軽いのは……それは他でもない、ユミル自身のオーダーだったからよ」

 俺達は一斉にユミルへと注目した。すると彼女は居心地悪そうにそっぽを向く。

「……もういいでしょ。返して」

 そんな俺達の目線を無視して、ユミルは俺の手から自分の斧を取り返した。
 そしてふと俺を見上げて、

「あとの事は、実際に刃を交えてみれば分かる。……そうでしょ、黒の剣士?」

 俺の喉元へ、先端にある副槍の白く鋭い(やじり)を突きつけてみせ、さらには挑発的な言葉と目を送ってきた。
 ……それについ笑みで答えてしまう。

 ――つくづく、この斧槍使いは、俺のような人間の闘争心のくすぐり方を(わきま)えているようだ。

「……ああ。まったくその通りだ」


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