禁断の果実編
第59話 適切なアドバイザー
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紘汰は過日の咲を思い出して溜息をついた。
ちなみに現在、“ドルーパーズ”で絶賛バイト中である。
(咲ちゃんはああだし、貴虎に会いにユグドラシルに行ったら面会謝絶とか言われるし。ミッチは退院してから何でか連絡つかないし。ああもうどうすりゃいいんだよ〜)
咲と最後に会ってから1週間が経った。咲の態度は頑ななまま、雪解けの気配を見せない。
今や咲と会えるのは、街に出没したインベスを退治する時だけだ。目下、それを待ち望みそうになる自分自身が、最大の敵だ。
(こういう時、俺って一人じゃ何もできねえんだって思い知らされる)
「おい」
思案をばっさりと切り捨てる横柄な声。その声の主が誰かを紘汰は知っている。
「あ?」
「とっくにカラだ。さっさと注げ」
かちん、と来る物言いはいつものこと。ボックス席の一つを一人で占領した駆紋戒斗は、今日も今日とて戒斗らしい。
紘汰は苛立ちながらもコーヒーのケトルを持って行き、カップになみなみと注いでやった。
「どーぞ」
「まったく。気が利かない店員だ」
アルバイトの身分でなければ言い返してやるのに。紘汰はうっかり挙げそうになった拳を抑えた。
「そんな体たらくだから、室井とも仲が拗れるんだ」
「ここで咲ちゃん関係ねえだろ! ……って戒斗。お前何でそれ知ってんだっ」
「ペコが泣き寝入りしてきた」
確かにインベス退治の時は咲とも顔を合わせるし、自分たちの間の空気はぎこちない。そんな場面をペコ含むビートライダーズに目撃されたことも一度二度ではない。
(つーかペコ、戒斗に相談しに行くとか、人選ミスにも程があんだろ……いや、精神的にタフっつーべき?)
「第三者が泣き言を上げるくらいだ。相当なんだろうな」
「お前にだけは言われたくねえ。大体、何も言わずに分かってくれなんて無茶だよ。話してくれたら力になれるかもしれないのに――」
「だから貴様は気が利かないというんだ」
「はぁ?」
「室井咲が何をされたらああなるのか、一度あいつの立場になって本気で考えてみろ」
戒斗は席を立った。そして、紘汰が目を白黒させる間に、会計を済ませて店を出て行った。
「なんだよあいつ…っ」
「おい、紘汰っ。配達頼めるか」
カウンターの向こう側にいる阪東からお呼びがかかった。
「あ、はい!」
紘汰は慌ててケトルを持ってカウンターに戻った。
阪東から、小奇麗にラッピングされたフルーツ籠を渡され、住所を教えられる。紘汰はエプロンを外すと、フルーツ籠を持って店を出た。
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