オリジナル/ユグドラシル内紛編
第56話 碧沙の本気
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「咲……貴兄さんっ」
その人たちを見つけた瞬間、碧沙は顔をくしゃりと歪め、走って行って抱きついていた。
「え、なに? なに? どしたの、ヘキサ。戦極凌馬にヤなことされたの?」
「ううん、ううん――会いたかった。会いたかったの。こんなことってあるのね」
碧沙は涙を浮かべながらも微笑んでいた。
神さまが存在するのなら、今は感謝しよう。最後に大好きな親友と大好きな兄に会わせてくれたこの数奇に。
(光兄さんもいればカンペキだったけど。ゼータクね、わたし)
碧沙は大好きな人たちの感触を刻みつけるため、咲と貴虎に強く縋った。
「何があったんだ? お前は凌馬の元にいるはずでは」
「聞いたの。わたしがいるせいで、兄さんも咲もオーバーロードを探せないって。それって、わたしがいなかったら、二人とも自由にうごけるってことよね」
碧沙が早口で言い上げるのに被せて、バタバタと人が駆け上がってくる音がした。
来た。碧沙の大事な人たちを苦しめる最大の要因。
ヘリポートに駆け込んだのは、戦極凌馬と湊耀子だった。
「凌馬っ? お前」
「貴虎……そう、そういうことかい。いつ私の目を盗んだか知らないが、落ち合う場所が悪かったね。この高さじゃ変身しても無事に降りるのは無理だ。残念だったね」
凌馬は状況から導かれる妥当な答えを言い上げた。忌々しげな笑みだ。悔しいなら素直に悔しがればいいのに。オトナのこういう所が碧沙には理解できない。
「あんたたち、ヘキサに何したのよ!」
「大したことはしていない。まだ。1週間ほどヘルヘイムの果実を食べてもらって、インベス化しないか観察したくらいだ」
「じゅーぶん大したことじゃない、このマッドサイエンティストぉ!」
碧沙は回れ右をして一気にヘリポート上を駆け抜けた。
「! 湊君!」
「碧……!」
「来ないでッ!!」
踏み出そうとした湊と貴虎がぴたりと停まった。
ヘリポートの縁に立つ。一歩でいい。後ろに一歩踏み出せば、自分はタワーから真っ逆さま。この高さで助かる見込みはゼロ。
それをしっかり確かめ、まっすぐ彼らを見返した。
「戦極さん、わたしの研究をやめてください。やめてくれないなら、わたしはここからとびおりて死にます」
「ヘキサ!!」
「わたしだって! ……戦えなくたって、非力だって、命をかけることはできる」
今日まで一切の力を求めず、力への誘惑を蹴ってきた碧沙の、これが答え。
力を使わない、戦い方。
「どうなんですか?」
「――虚仮脅しだ。できるはずない」
凌馬は引き攣りながらも笑みを浮かべた。
ふっ、と。碧沙は微笑を湛えた。――オトナはコドモの本気を侮りすぎている。
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