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打球は快音響かせて
高校2年
第四十六話 男にしてやるよ
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しようって決めとって……」
「…………」

聞いた渡辺の方も、薄々そんな気はしていた。
そして、浅海の“女言葉”の意味がわかった。浅海は、松下の前では“女”なのだ。

「今三龍で正規採用でやっとるけど、結婚したら、その、育児とかの事もあるけん、公立の非常勤とかで先生続ける事になるっち思う」
「……要するに、三龍の先生を辞めるって事ですね」

来年結婚か。という事は、もしかして浅海は今年度までか?それは嫌だ。せっかく甲子園に来年の夏連れて行くと誓ったのに、その時にはもう浅海は居ないなんて、それは嫌だ。浅海が秋に胃に穴を空けながら指揮をとったのは、もしかしてこれが最初で最後の指揮だと分かっていたから……?

ガンッ!
渡辺は自然と、机に手をついて頭を下げていた。

「お願いします!来年の夏までは浅海先生に俺らの監督やらして下さい!このまま、浅海先生に悔しい思いさせちまったままで、終わるのは嫌です!お願いします!お願いします!」
「おいおい……」

唐突に懇願された松下は、頭を下げた渡辺の必死な様子に戸惑いを見せた。

「俺らがこの秋に甲子園まであと一つまで行けたんは、絶対に浅海先生のおかげなんです!俺らにもできる、勝てるんだって、この秋に俺ら分かったんです!分からしてくれたんは浅海先生なんですよ!実力以上の力を引っ張り出してくれたんですよ!俺らがもし来年甲子園行っても、そりゃ浅海先生のおかげなんです!でもそこに先生が居ないと、意味が無いやないですかァ……」

縋るような目つきで見上げてくる渡辺に、松下は困ったような笑みを見せた。

「いやいや、違うけ。俺が言いたいんはなぁ、その……来年の夏までになるから、必ず、あいつを甲子園に連れてってくれって事よ」
「…………」

渡辺がホッとして、一気に顔から力が抜ける。
そんな渡辺の様子を、“大人”の松下は微笑ましく見ていた。

「俺もな、野球しよったんよ。奈緒と出会ったんは、大学の準硬式野球部で……でも準硬やけな。あいつに、そんな大きな夢は見せてやれなんだよ。でもお前らは違う。甲子園があるやろ。浅海は夢見がちな女やけ、あそこに行ったら何が待ってんのか、あそこに行ったお前らがどんなに変わるのか……夢ば描きよると思う。お前らが正夢にしちゃってくれよ。な、頼むよ」
「…………」

今度は、松下が頭を下げた。
年上の大人が頼んでいた。託していた。
渡辺はしっかりと頷く。

「……分かりました。松下さんは、浅海先生を幸せな“女”にしてあげて下さい。その代わり、俺らは、浅海先生を“男”にします」
「男?」

渡辺は言葉遣いの使い分けになぞらえて言ったつもりだったが、松下にはイマイチ伝わってなかったようだ。渡辺はニッと笑って言い直す。

「松下さんに、“
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