第四話 月下の逢瀬
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おっ、お前、何か勘違いしてない?」
そう言い、笑うのをやめたかと思えば顎を強い力で引っ張られ、無理やり振り向かされる。
「っ!?」
「何?俺が女子寮の誰かのストーカーでもしていると思ったわけ?」
片手だけ樹木に預けたままこちらを見る祐樹に、無意識にかあーっと顔が熱くなる。
それに何を思ったのか、更に顔を近づけてくる。
こんな所を第三者が見たら、誰もが寝静まった寮を抜け出して逢引をしていると見えなくもないだろう。
尤も、自分がこのクラスの人気者である彼に相応しいとは微塵も思っていない。
だが、今は夜だ。
とっくに下りた帳に人工物の灯りは限られている。
唯一、赤を孕んだ月明かりだけがこの宵闇に佇む二人に影を与えていた。
それだけで陳腐なゴシップなどいくらでも捏造できるだろう。
「…俺の秘密、誰にもバラしたりしないよね?」
「……っ」
「………………蓮見」
顔を離すと、恰も何事もなかったかのように実に爽やかに微笑む見慣れた梶田祐樹が今は憎らしく思え、返答するのに幾分か間が空いたのを気づかないはずがなかった。
「わっ、解りました」
不意に、頤を持ち上げ、また距離を詰めてくる彼の顔は実に楽しそうだ。
まるで、新しい玩具でも手に入れた子供のようだ……と思い切れないのがその笑顔にはあった。
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