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亡命編 銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第百二十一話 責任と自覚
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ことになる」
淡々と言葉が続く。不幸だなと思った。この男は先が見え過ぎる。そしてもう一人先が見え過ぎる男が居る……。

「お前さんが組んでいるのはレムシャイド伯だな。伯と組んで帝国側から自分が政府代表に加わる様にした」
「否定はしません。伯も次の戦争を避けたいと思っています。あの人も帝国、同盟の両国を見た。国は違っても住んでいる人間に変わりは無い。帝国が劣悪遺伝子排除法を廃法にした以上共存共栄は可能だと見ています。何より両国が争えばまた地球教のような存在が現れるのではないかと恐れている」
大きく息を吐いた。この男が不幸なのは先が見える事だけじゃない、それを放置出来ない事だ。その事が更に不幸を呼びかねないのに。悪循環だな。

「ヤンが心配しているぞ」
ヴァレンシュタインが苦笑を浮かべた。
「ヤン提督も私の命が危ないと?」
「そうじゃない。ヤンはお前が民主共和政にとって危険な存在になりかねないと心配しているんだ」
ヴァレンシュタインがこちらをじっと見た。もう笑みは浮かべていない。

「意味が分かりませんね」
「本当に分からないか? 軍だけでなく政府でも力を延ばし始めた。その内お前さんが政府、軍を自由に動かす存在になるんじゃないかとヤンは危惧しているんだ」
「面倒な人だ。独裁者になるとでも? 馬鹿馬鹿しい」
吐き捨てた、不愉快そうな表情だ。内容か、それともヤンに対してか。

「俺も馬鹿馬鹿しいと思っていた。しかしお前さんと話してちょっと不安になった。お前さん、民主共和政を何処かで侮蔑していないか? だとすればそんな人間が民主共和政で力を付けるのは危険だと考えるのは可笑しな事じゃ無いだろう。ヤンの疑念の底に有るのもそれじゃないかと俺は思うんだが」
ヴァレンシュタインがフッと息を吐いた。

「私が理解しているのは民主共和政も君主独裁政もそれぞれに利点と欠点が有る、完璧な統治体制など無いという事です。所詮は人間が運用する物で運用する人間が愚かなら悲惨な結果になる。違いますか?」
「……お前、もしかして人間を信用していないのか? だとすればそれはルドルフと同じだぞ」
ヴァレンシュタインは少し驚いたような表情をしたが直ぐ苦笑を浮かべた。

「そうですね、そうかもしれない。ですがルドルフの様に自分を無謬だと過信してもいません。自分も愚かな一人の人間だと思っています。安心しましたか?」
「……気休め程度には」
「猜疑心が強いのは美点とは言えませんね」
「ほっとけ」
ヴァレンシュタインが声を上げて笑った。笑える奴は良いよな。なんで俺が心配しなければならんのか。



宇宙歴 796年 4月 20日  ハイネセン  同盟議会  エーリッヒ・ヴァレンシュタイン



「今回の捕虜交換ですがこれは和平交渉の一環と
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