カプチェランカからの帰還
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であった。
机の上におかれた紙に目を通せば、不愉快そうに言葉を口にする。
「表向きは――君がいち早く装甲車の脳波システムを見抜き、その対策を考えた。その視点で、同盟軍の装備改良をということだが……信じられるかね」
「信じられませんね」
「私もだ。そんな事は兵士の仕事ではなく、技術屋の仕事だ。君である必要がない――何か上層部の恨みでもかったか?」
冗談めかして尋ねるクラナフに、アレスは苦笑で返答する。
「心当たりだけは山ほどあるのですが」
「優秀なものが妬まれるのは世の常だ。だが」
そこでクラナフが居住まいをただす。
真っ直ぐに伸ばした背と瞳がアレスを捉え、アレスもまた浮かべていた笑みを消す。
「君の味方もまた存在する事を忘れないよう。どうか腐らず――達者でな。また君と共に戦える日を楽しみにしている」
「光栄です、大佐」
あげられた手を握り、アレスは敬礼を行った。
+ + +
「頑張れよー!」
宇宙暦791年9月。十月の配属に間に合うように、アレス・マクワイルドは兵と物資の補充に来た補給艦に乗り込む事になった。怪我で長期療養をする兵や異動する兵を見送るため、カプチェランカ同盟軍基地に残る兵士達が見送っている。ある者は帰還に安堵を、あるいは別れる戦友に寂しさを浮かべながら、補給艦へと向かう小型船に乗り込んでいた。
アレスもまたその列に並べば、僅か数カ月ばかりの付き合いである第一小隊の面々が総出で手を振っている。
君らは、今日は当番だろう。
本来であればいるはずのない人員は、しかしさも当然のように最前列にいる。
部下が無理をいったのか、あるいは上が気を利かせたのか。
おそらくは両方であろうと苦笑して、手を振り返した。
最前列――その前方にはバセット軍曹の姿がある。
手を振りながらも笑顔をみせない。
出会った時のように、不貞腐れているわけでも、絶望をしているわけでもない。
端的に一言で表すならば、覚悟というのだろう。
現状に嘆いて、駄々をこねる子供ではない。
現状を憂いて、打破を目指す戦士の表情だった。
だからこそ、アレスは安心できた。
これが今生の別れではない。
いや、次に会う時はさらなる地獄が待っている。
だからこそ――その日まで元気で。
視線があえば、理解したようにバセットが頷いた。
「お元気で」
静かな一言が万感の思いを込めて告げられる。
その一言に、アレスは小さく笑い、少し考える。
別れの挨拶を何と言うか。
元気でというか。
頑張れというべきか。
定例となる言葉が頭をよぎって、小さく首を振った。
手をあげて、口にする事は短い。
「死ぬなよ」
ただ、それだけを呟けば、初
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