カプチェランカからの帰還
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、一筋の傷跡が右目を微かに横切っている。
戦闘後の部隊再編によって、特務小隊は解散している。
正確には小隊長の死亡した部隊をまとめ、特務小隊は第一中隊第一小隊として新設されている。第一小隊に配属されるものは、軍の中でも特に優秀な者がなる慣習の中で、士官学校を卒業した者が――それも小隊長として配置されることは前例にない事であったが、クラナフ大佐を始め、中隊長や他の小隊長から異論の言葉はでなかった。
正規の人数が集まった小隊では激しい訓練が行われている。
解散した他の小隊にいた分隊長率いる第二分隊、第三分隊を――カッセルの死に伴って、第一分隊を率いる事となったバセットが、悪辣な落とし穴罠に引きづり込む。
カッセルが見ていれば見事と笑ったか、あるいは面倒なことになったとため息を吐いたであろう。
どちらかといえば、後者か。
小さく笑みを浮かべ、第二分隊と第三分隊の壊滅と共にアレスは腰をあげた。
近づく姿に、不敵に笑っていたバセットが敬礼を返す。
今にも尻尾を振りそうだなと――どこか忠犬の様子に手で答えて、穴を覗き見れば、雪に埋まる兵士を見た。
怪我はなさそうだ。
「これが本番なら水でも入れておくのですがね」
「本当に、最悪だな」
おそらくはカッセル直伝の悪辣な罠を想像して、アレスは顔を歪めた。
落とし穴の下に、ただの水。
しかしながら、氷点下を下回るカプチェランカでは最悪この上ない結果をもたらす。
外に出れば一瞬にして水が凍りつき行動を阻害。
さらには体力を容赦なく奪う。
穴に落ちた兵士は進むことも、自力で戻ることも出来ず、周囲の兵の助けを借りて、さらに戦力をおとす。
あるいは戦場の興奮にあてられて、敵陣を目指し、力尽きるか。
「環境を利用すると、軍曹は言っておられました」
「頼りにしているが、性格まで真似するなよ。軍曹」
肩に手をおかれて、バセット軍曹はそうですねと小さく笑った。
グレン・バセットは、先般の戦いで軍曹へ階級をあげ、さらに早くも十月には曹長への階級が内定していた。
死地へと送りだしたクラナフのせめてものお詫びだろうか。
もっとも、先の戦いで多くの下士官が死亡し、現実的に兵が足りない事が主な理由かもしれないが。
使える者は使えということか。
その一方で、いまだにアレスの結論は決まっていない。
決死隊の指揮に、敵司令官の殺害。
その功績は大きい――しかし、大きすぎる事が遅れを招いている。
前例がないのだ。
これが彼のエルファシルの英雄のように、民間人を救うなどと大々的に報じられれば別であったのだろう。活躍したといっても所詮は一惑星だけの話であって、さらにアレスの活躍を表に出せば、必然的に敵基地攻撃の失敗や装甲
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