カプチェランカからの帰還
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干した。
差し出された器に、母親――ジュリエット・フォークが慌てたようにワインを注ぐ。
「あなた。それ以上は……」
「まあいい、今くらいの差などこちらでどうとでもなる事だ。たかが少尉や中尉など、紙きれ一枚で何とでもなる話だ。こちらで手を打っておいてやるから、お前は自分の役割をもう一度考えることだな」
苛立たしげにもう一杯のワインを飲み干せば、話は終わりだとばかりに食事を開始した。
しばらくジュリエットとアンドリューは言葉を待ったが、それ以上の話はない。
「さ。冷えないうちに食べちゃいましょう。美味しいわよ」
「ええ」
頷いて、アンドリューは手にした肉を口に入れた。
それは随分と冷えていて、まずい。
それを碌に噛まずに嚥下して、アンドリューはナプキンで口を拭いた。
「父様」
「何だ、アンディ」
「それでしたら、もう少し父様のお力を借りたいと思います」
「また頼みごとか?」
「ええ。しかし、今回は前回に比べて楽なことです。私はアレス・マクワイルドの力を見誤っていました――だからこそ、次は……」
続いた言葉に、アルバートは鼻を鳴らした。
先ほどまでの不快気な様子ではなく、どこか愉快気な雰囲気だ。
「なるほど。だが、それを説得するのは少し難しいかもしれんな」
「簡単な事です。彼は活躍した――ええ、装甲車の異常を発見するという活躍をね」
「そちらを前面に出すわけか。だが、簡単とは言ってくれる――それの根回しをするのは私だと言うのに」
「こちらも手は打っておきます。幸いにして人事課に勤務していますから」
「いや。やめておけ――新人が軍の人事に口を出せば、妙に勘ぐられる。その件については、前回同様こちらで何とかする。また先生には迷惑をかけるがな」
「申し訳ございません」
「そう思うのならば、活躍する事だ。それこそが先生の望みでもあるのだからな」
再び鼻を鳴らして、今度こそ話は終わりだと肉を口に入れる。
会話のない沈黙の夕食が再開された。
+ + +
宇宙暦791年8月。
惑星カプチェランカでは、両軍とも積極的な攻勢を行う余力はなかった。
7月の戦闘によって、多くの将兵が死に、しかし、死んですぐに交代要員を補充する事は、距離的な問題から不可能。もっとも、防衛戦にて活躍を見せたラインハルトは原作通りに一階級をあげ、次の任務地へと向かっていたのだが、それは同盟軍の知るところではなかった。
「第三分隊、かけろ」
「突破させるな!」
一方の同盟軍。
雪上の上では、兵士が訓練を行い、それを見守る青年がいた。
アレス・マクワイルド。
まだ二十を過ぎたばかりの金髪の青年は、すでに瞳の傷が癒えて両の眼を開いている。
それでも残った痕は生々しく
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