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久遠の神話
第百一話 託すものその四

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「陸自さんでは部内幹部と呼ばれていますね」
「そのままね」
「そうでしたね」
「まあとにかく大卒のそうした幹部はね」
「転勤が多いですね」
 他の官公庁ではキャリア扱いになる、だから昇進は早いがそれと共に転勤もまた、というのだ。
「どうしても」
「多いよ、防大を出ると」
「だから一佐は今はですか」
「ああ、単身赴任だよ」
 そうなっているというのだ。
「気楽な一人暮らしかというとね」
「実際はですね」
「孤独なやもね暮らしだよ」
 笑ってだ、今の自分はそちらだというのだ。
「頼りになる女房子供がいなくてね」
「色々と厄介ですか」
「うん、そうだよ」
 全く以てと言う一佐だった。
「困ったことだよ」
「単身赴任は気楽じゃないんですね」
 ここで高橋も言うのだった。
「実際は」
「そうさ、気楽なのは案外女房の方かもな」
「奥さんの方がですか」
「亭主元気で留守がいいさ」
 一佐は笑ってこの言葉も出した。
「亭主ってのはそんなものさ」
「奥さんはそうなんですかね」
「そうじゃないか?まあ今は一人暮らしだからな」
 だからだというのだ。
「色々と辛いよ」
「そうですか」
「さて、では君達はそろそろ君達の最後の戦いだ」
 ここでこの話に戻った、一佐はあらためて言った。
「帰って来た時は祝いで食べる、だが今は」
「今は?」
「今はといいますと」
「昼を食べて栄養をつけることだ」
 こう二人に言うのだった。
「そうするべきだ」
「腹が減っては戦は出来ぬ」
「そういうことですね」
「そうだよ、まずは食べてからだ」
 戦いはだ、そこからはじまるというのだ。
「だからいいな」
「そういえば今日はカレーでしたね」
 工藤は一佐に応えて言った。
「金曜日ですし」
「そう、カツカレーだよ」
「勝つ、ですね」
「縁起としても丁度いいな」
 自衛隊は今日がどの日なのかをわかりやすくする為に金曜日のメニューはどの部隊でも決めている。カレーなのだ。
「カツカレーはな」
「そうですね、では」
「君達に命令する」
 微笑んでだ、ここでこう言った一佐だった。
「カレーを腹一杯食べることだ」
「そうして力をつけ」
「そのうえで」
「闘ってくれ」
 二人の最後の闘いをというのだ。
「そうしてくれるか」
「はい、わかりました」
「それでは」
 二人も微笑んで応えた、そのうえで礼をするが二人共今は帽子を被っていないので敬礼ではない。そうしてだった。
 二人はこの昼はカレーを食べた、そして。
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