第百一話 託すものその二
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「酒もな」
「では焼肉を」
「私は串カツを」
二人はそれぞれ食べたいものを挙げてきた。
「酒はビールで」
「焼酎を」
「おい、待ってくれるか」
二人の返答にだ、一佐は戸惑いを隠せない顔で返した。
「約肉に串カツだと。随分安いな」
「いえ、それでいいので」
「私もです」
こう返す二人だった、その一佐に。
「安いというよりも」
「今食べたいものを」
「欲がないな」
呆れた顔で言う一佐だった。
「君達は」
「まあ高いものは食べていません」
「根っからの庶民ですから、私達」
微笑んで言葉を返す二人だった。
「キャビアやフォアグラ等は」
「あとカラスミとかも」
「我々には縁がありません」
「料亭とかも興味がないですから」
「まあ私もな」
一佐もだった、二人の話を聞きながら腕を組んで言った。
「防大時代から居酒屋や焼肉屋ばかりだったな」
「自衛官はそうですね」
「ああ、何故か基地の近くにはほぼ絶対に焼肉屋があるからな」
「そして居酒屋も」
「大抵そこだな、部下に奢るとなると」
「ですから」
だからだと言う工藤だった。
「我々もそれでお願いします」
「焼肉か串カツか」
「焼き鳥でもいいです」
「まあそんなところだな、わかった」
一佐は二人の無欲を受けて確かな顔で述べた。
「終わった時は笑顔でどんな店でも言ってくれ」
「わかりました、それでは」
「勝ってきます」
「私が今言うのはこれだけだ」
二人にこうも述べた。
「ではな」
「はい、それでは」
「行って参ります」
「そういうことでな。ところでだ」
ここで一佐は話題を変えてきた、とはいっても仕事の話ではない。彼が今話すのはスポーツの話題だった。
「工藤一尉は剣道をしているな」
「はい、そうです」
「何段だったか」
「五段です」
「そうか、その若さでか」
「かなり順調にいっていると思います」
自分でもだというのだ。
「そしてフェシングもはじめました」
「ああ、あれもだね」
「防衛大学にフェシング部はありましたね」
「運動部は大抵揃っているよ、あそこは」
何しろ軍人は身体を鍛えることも仕事のうちだ、学生時代からそうしたことで己の身体を鍛えているのだ。
「フェシング部もあるよ」
「そうでしたね」
「うん、部活では先輩も優しいんだよ」
「日常生活の時とは違って」
「そうなんだ、まあ海自さんの江田島よりはましかな」
工藤が既に江田島で幹部候補生の課程を終えていることからの言葉だ。
「あそこは特別らしいからね」
「確かに厳しいですね」
「自衛隊の中でもね」
「そのまま兵学校の雰囲気が残っています」
それが江田島だというのだ。
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