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万華鏡
第七十三話 雪その五

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「いいわね」
「そうなのね、よく寝ることなのね」
「お酒もよ」
「飲み過ぎるなっていうの?」
「最近琴乃ちゃん飲み過ぎよ」
 年末年始の娘を見ての言葉だ、母は娘にこのことはかなり真面目な顔になってそのうえで注意したのだった。
「うわばみみたいに飲んで」
「うわばみって言い過ぎじゃあ」
「じゃあ上杉謙信よ」
 この英傑は無類の酒好きだったとして知られている。死因もそれが原因ではないかという説がある位である。
「謙信公みたいに飲んだら駄目よ」
「謙信さんね」
「そう、少しは控えないと」
「身体に悪いのね」
「幾ら何でもね」
 飲み過ぎだというのだ。
「糖尿病や痛風にならなくても」
 それでもだというのだ。
「体調を悪くするわよ」
「お酒の飲み過ぎは」
「確かに百薬の長よ、お酒は」
「けれど飲み過ぎるとよね」
「百毒の長になるのよ」
 そっくりそのままひっくり返るというのだ、薬が毒に。
「だから気をつけないと」
「じゃあ一升瓶二本とかは」
「せめて一本にしないと」
 飲むにしてもだというのだ。
「しかも最近飲む日も増えてるじゃない」
「そういえば十二月末から特に」
「そうでしょ、お酒も控えてね」
「健康に気をつけてなの」
「ライブに向かいなさい、いいわね」
「お酒ねえ、そっちはね」
 娘は母の今の言葉には難しい顔になった、そのうえで言うのだった。
「やっぱりね」
「飲みたいのね」
「相当にね」
 完全に本音だった、今の言葉は。
「もっともっとね」
「だから飲んでもいいけれど」
「控えなさいっていうのね」
「そうよ、一升瓶二本なんてね」
 幾ら何でもだとだ、母の顔にはこの言葉が書かれていた。
「どれだけ飲んでるのよ」
「そこを一本にして」
「そう、控えてね」
 くれぐれもという口調での言葉だった。
「わかったわね」
「わかりましたって言うべき?」
「さもないと風邪じゃ済まないわよ」
 深酒が過ぎると、というのだ。
「百毒の長だからね」
「お薬が転じてなのね」
「とにかく最近琴乃ちゃん飲み過ぎ過ぎだから」
「そういえばそうかも」
 母に強く言われているうちにだ、琴乃自身もそう思いだした。それで遂にという感じで自分からこう言ったのだった。
「じゃあ半分位でね」
「一升瓶二本じゃなくてね」
「一本ね」
「というか普通一本もね」
 それだけの量もだというのだ。
「普通に凄いのよ」
「酒豪かしら」
「酒豪よ」
 まさにその域に達しているというのだ。
「殆ど謙信さんよ」
「お母さん謙信さん好きね」
「好きだけれどね」
 このことはその通りだというのだ、だがだった。
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