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万華鏡
第七十三話 雪その四

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「揚げだって」
「うちってお豆腐好きだしね、皆」
「いいことよ、お豆腐が嫌いだとね」
「困るの?」
「お料理のレパートリーに限りが出るわ」
 それもかなり、というのだ。
「だから家族が皆豆腐好きなのはいいことよ」
「今日も湯豆腐が出来るから」
「いいのよ、とにかく今日はね」
「湯豆腐ね」
「たっぷり食べるのよ、お葱も入れるから」
「お野菜もね」
「そう、遠慮はいらないわよ」
 母はにこりと笑って娘に言う、そしてだった。
 琴乃はホットココアを飲み終えてから暫くしてその湯豆腐を食べた、まだ父は帰っておらず弟も今はだった。
「二人きりね」
「そうね、ちょっとね」
「あいつ塾なのね」
 弟の席を見てだ、琴乃は言った。
「中学生も忙しいわね」
「琴乃ちゃんも中学時代は塾通ってたでしょ」
「そうそう、そうだったわ」
 言われてだ、琴乃はこのことを思い出した。思い出しながらそのうえで湯豆腐をはふはふと食べている。
「もう忘れかけてたわ」
「中学時代のことも忘れたの?」
 母は呆れた笑顔で娘に問うた、御飯を食べながら。
「一年前まではそうだったのに」
「いや、高校に入ってから高校のことばかり考えてて」
「昔のことはだったのね」
「全然思い出すことなかったから」 
 だからだったというのだ。
「入学からずっとね」
「学園生活充実してるからなの」
「そう、だからね」
「全然だったのね」
「中学の頃はここんとこ振り返りもしなかったわ」
「それはそれで凄いわね」
 呆れた顔から神妙な顔になって応えた母だった。
「そういえばまたライブだったわね」
「節分の時にね」
「あっという間よ、もう」
 そのだ、節分のライブまでというのだ。
「だから覚悟していなさいね」
「今のうちに練習してなの」
「そう、油断していると練習不足のままってなるから」
 そのままライブに入ってしまうというのだ。
「練習第一でしょ、音楽だって」
「歌も演奏もね」
 そのどちらもだ、ライブにしても練習が重要だ。だから琴乃がいる軽音楽部も何かと練習を重ねているのだ。
「そのことはね」
「ならいいわね、今からね」
「じっくり練習してなのね」
「本番に向かいなさい」
「わかったわ、それじゃあね」
 琴乃は豆腐に醤油をかけつつ母の言葉に応えた。
「練習は怠らないわ」
「そういうことでね。あとはね」
「あとは?」
「健康第一だから」
 母親としての定番の言葉がここで出た。
「風邪もひかないことよ」
「身体を冷やさないことね」
「そう、後はね」
「後は?」
「寝ることよ」
 じっくり、というのだ。
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