トワノクウ
第四夜 逢坂山
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りなので、まだこの国の常識に慣れてませんし。仮に朽葉さんが妖を飼ってたとしても」
――これから言おうとしていることは道義的には正しい。くうは正しい。そう言い聞かせても声にするのに心臓は痛いくらいに高鳴った。
「それで朽葉さんを怖がる理由として十分とは思えませんから」
おばさんたちは呆れた顔をした。この子は何にも分かってない、だの、外面に騙されて、だの、そんな感じの思惑が読み取れた。物知らずの異人娘への上から目線な同情だ。
(なけなしの勇気ふりしぼったのにこれじゃいやんなります)
くうはにこやかに、おばさんたちに暇を告げて、踵を返した。
買い物はおしまい。あとは有り物ですませる。すみやかに寺に直帰しよう。
寺の門を潜って庫裏へ回ったところで、くうは玄関の前に人が立っているのを認めた。
寺の正門ではなく庫裏に来たということは、私的な客人ということだ。
その客人は沙門と同じくらいの年頃の男だった。髷に袴という出で立ちから、商人や農民ではなく、士族。
「こちらのお寺に何かご用ですか?」
声をかけると男はくうをふり返った。
男はのっぺりした目でくうをじーっと見つめてきた。気まずい。
(やっぱり白髪にオッドアイは奇妙に映るんでしょうか。こんなことなら遠慮せずに朽葉さんに髪染め買ってもらっとけばよかったですぅ〜)
「あの、どちら様でしょうか」
「ああすいません。私、佐々木といいます。沙門はいますか?」
「沙門さんでしたら、お仕事にお出かけです」
寺はそれ自体が運営しにくいご時勢なので、沙門も朽葉も外に働きに出る。二人の仕事は剣道道場の師範代である。師弟揃って剣術を修めているので向いた仕事だと夕飯時に教えてもらった。
「失礼ですが君は?」
ずい、と佐々木に顔を近づけられて、ついくうは身を引いた。
「私はこちらに住み込みで家事手伝いをさせていただいてる者です」
ふむ、と佐々木は腕組みをした。
「出家人のくせにこんな愛らしい女中さん雇ったんですか、あのくそ坊主」
「く、くそ坊主って」
確かに酒は飲むし酔った勢いであちこちで寝るし、寝たら朽葉に叩き起こされるし(この起こし方は一昔前のアーケード並みのコンボ技である。朽葉による沙門起こし、三回目からヒット数をカウントしていることは秘密だ)。
「まあいいです。沙門の帰りはいつ頃か分かりますか?」
「夕方前には帰るとおっしゃってました。上がってお待ちになりますか?」
幸いにして沙門の帰宅予定時刻までそう長くない。お茶を出して待ってもらっている間に沙門も帰ってくるだろう。
「そうですか? それじゃ上がらせてもらいましょうか」
「はいっ。中へどうぞ」
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