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トワノクウ
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第四夜 逢坂山
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揃えだ。

(晩ごはん、どうしましょうかねえ)

 籠をぶらぶらさせながら考える。

 今日も暑いのであまり煮炊きはしたくない。現代ならそうめんや冷やし中華だが、明治にはまだ乾麺さえない。贅沢を言わずにきちんと作れという料理の神様のお告げだろうか。

「そうだ、お豆腐!」

 豆腐がウナギに化ける節約料理を父に黙ってこっそり作ったことがある(父親は凝り性なので手抜き料理は認めないのだ)。夏といえばウナギだ。それに普通に調理しても、冷奴は冷たい料理の定番だ。

 豆腐屋に到着したくうは、店員に声をかけた。

「くださいなー」
「へいらっしゃい! お、寺の娘っ子かい。今日の夕飯かい」
「はい。ウナギもどきを作ろうと思いまして」
「そりゃけったいな。百珍本にも載ってねえんじゃねえかい。上手くいったら教えてくんなっ」

 目的物を買って豆腐屋をあとにする。ビニールといった便利なものはないので箱のまま籠の中である。水分が干からびる前にほかの買い物も終わらせねばならない。

(うな丼だったら汁物いりますね。こっちは普通に材料ありますし)

 考えながら歩いていたせいで注意力が削がれた。くうは道端でおしゃべりしていたおばさんの集団に軽く接触した。

「あ、すみませんっ」
「気をおつけよ。……おや、あんた、前に鵺に襲われてた子じゃないかい?」

 ぎくり。肩がこわばった。

「ひ、人違いじゃありませんか」
「そんな奇特な成りの娘を見間違いやしないよ」

 そういえば、と他のおばさんたちも、くうに注目し、ひそひそと何かを囁き合った。気分が悪い。くうはその場を去ろうとした。だが、そうは問屋が卸さなかった。

「ちょいとあんた、あの寺で女中してるんだって」
「――そうですが、それが?」
「本当のところ、寺の娘はどうなのよ」

 直感する。この人たちは朽葉を悪しざまに言おうとしている。

「どう、とは」
「知らないわけじゃないだろう。寺の娘は妖を飼ってるって噂」

 思い出すのは巨大な狗。彼女は心から朽葉を案じていた。

「家一つ分はあるでかい犬だっていうじゃないか」
「あら、あたしは寺を一周するくらい長い蛇だって聞いてるよ」
「ちがうよ、狐だよ。寺の娘は狐憑きなんだよ」
「血を浴びると呪いを受けるとか」
「袈裟の下は腐肉なんだろう」

 好き勝手に自分が知る「噂」こそ真実と主張し合い、やがてくうをやっと思い出して「どうなんだい」とおばさんたちが聞いてくる。

「はあ、そうなんですか」

 くうは知らないし、知るとしてもこんな形では知りたくない。だから今、最善と思われるリアクションコマンドを選んだ。

「はあ、って、あんた、怖くないの?」
「さあ。外国から来たばっか
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