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トワノクウ
トワノクウ
第三夜 聲に誘われる狗(三)
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「そんなことはない。本当に美味いぞ」

 身を乗り出しての問いにも朽葉は肯定で応え、再び味噌汁を飲む。褒めてすぐ食べるのを再開してくれたことが、くうをもっと嬉しくさせた。

「こりゃ驚いた。朽葉より上手いんじゃないか?」
「そんな沙門様!?」
「そんなはずないです!」

 くうが急いで強く否定したせいか、朽葉と沙門の注目が集まる。

「おいしいものを沙門さんに食べてもらいたいって頑張った朽葉さんのお料理が、私なんかのお粗末な料理よりおいしいなんてありえません。ぜったい!」

 はっとした時には遅く、朝から怒鳴ってしまってはしたないという思いに、くうは真っ赤になった。

 くうが縮こまっていると、不意に沙門が噴き出した。

「はっはっは! いやなかなか、いい心根を持った娘さんだ。飯のことといい、これは思わぬ拾い物をしたな」

 よしっ、と沙門は膝を叩く。

「お前さん、ここで住み込みの家事手伝いをしてみんか?」
「ふぇ!? わ、私がですか!?」

 そんなつもりで料理をしたのではないのに。ただ一宿一飯の恩を返すつもりだったのに。本当に無計画に見切り発車でやったことなのに。まるで打算があったようになってしまった。

「実は俺達はこんなご時世だから出払うことが多くてな、朽葉に無理をさせてきたが、お前さんが寺の世話をしてくれるなら俺も安心できる。代わりにお前さんはここを宿にする。どうだ?」

 断る理由はない。どうせRainy Moon Night≠ヘ生活冒険RPG、ゲームの中でも明治時代で生活するはずだったのだ。それが現実として振りかかり、くうが生きるために実際に働かなければならなくなったのだと考えれば気分も楽だ。

 くうは三本指を突いて沙門と朽葉に礼をした。

「精一杯やらせていただきます。よろしくお願いします」

 かくして、くうの「本当の」明治綺譚が始まった。

                                  Continue…

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