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トワノクウ
トワノクウ
第二夜 翼の名前、花の名前(三)
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(思い出と言うには、まだあまりに生々しい。お前達との日々は)

 朽葉はそっと眼帯を指で撫でる。
 結局それほど長い日数を着けずに外してしまったのに、何故かそれは彼≠フものだと言えた。


預けとくから。帰ってきたら返してよ
親の教えでさ。人と別れる時は思いきり大げさに惜しむことにしてんだよね。――一生の別れになっても後悔しないように


 朽葉は眼帯を両手で握り込んだ。伝わるのは皮の硬いざらつきばかり。彼≠フぬくもりなどどこにも残っていない。


「――鴇」


 呼んだ声はやけに大きく響いて部屋に染みた。


俺も篠ノ女も朽葉が大好きだから! 絶対離さない!
朽葉に会ってから嫌だったことなんて一つもない
ごめん……俺もほんとはずっと朽葉と一緒にいたかった……
こんなこと言うと怒られそうだけどさ――強く生きてね、朽葉


 優しくするだけ優しくして、未練を作らせるだけ作らせて、希望を持たせるだけ持たせて、夢中にさせるだけ夢中にさせて、結局帰ってこなかった。

 眼帯を胸に押しつける。嗚咽をかみ殺す。

 逢いたい。逢って声を聞きたい。締りのない笑顔を見たい。

 六年待った。昔よりは乱暴さも抜けた。家事も上達した。犬神とも上手くやっている。妖との関係も考えるようになった。

 だから、早く帰って来い。

 朽葉は膝を抱える。

 こんな夜はもう嫌だと、思いながらもまた同じ夜を迎えるのだろう。彼≠ェ朽葉の前に再び現れるその日まで――

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