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トワノクウ
トワノクウ
第二夜 翼の名前、花の名前(二)
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のだ。帰る方法も彼岸人にしか分からない。以前の男は独力で帰ったんだ。どういう方法かは『説明しても理解できない』と言って語らなかったし、私もそういうものかと追及しなかった。こんなことになると分かっていれば少しでも聞いておいたんだが……」
「い、いえっ。くうが勝手に来たのに、朽葉さんがそんなこと気になさることないです」

 そもそも異世界人がぽんぽん来るものだとは誰しも思うまい。くうとて元の世界にいても、いつか別世界から異邦人が来ると信じて備えをしたりはしなかった。――互いが常識外の存在なのだ。

「彼岸が神様の国ってことは、朽葉さんや沙門さんには、私みたいな彼岸人はつまり……神様?」
「そうなるな。もっとも彼岸人だろうと人間は人間だ。妖のように異形でも脅威でもなし。何か奇跡を起こすんでもない。そう気負うな」

 沙門はからっと笑った。力強い。くうも苦笑して頷いた。

 確かに彼岸には、くうの世界にはここ明治にないテクノロジーもサブカルチャーもある。この時代よりも便利な暮らしがある。
 だが、それはくうが自らを神と誇る要素にはなりえない。自分もまた無力な人間だと肝に銘じておかねばならない。

「さてっ」

 切り替えるように沙門が膝を叩いた。

「お嬢さん。とりあえずここでの生活は俺が世話しよう。悪いようにはしない」
「ふえ?」
「なあに。お前さんみたいな正体不明の奴を放っておくよりは、手元に置いとくほうが騒ぎも起きん」

 人一人養うのがどれだけ大変か知らないくうではない。衣食住の保障から、何か厄介事を持ちこんだら責任問題まで、他人の子を引き受けるなど笑って提案できることではない。
 そのリスクを背負ってまで、沙門はくうを世話すると言ってくれている。

「あ、ありがとう、ございます」

 こんなに感極まっているのに、ありきたりな礼しか言えない自分が情けなかった。

「そうと決まったら飯にしよう。朽葉の作る飯は美味いぞ」

 朽葉は沙門に褒められたからか嬉しげに頬を緩める。
 実は食欲がなかったりするのだが、断るのも失礼なので、くうはそれを飲み込んで礼を言った。



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