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トワノクウ
トワノクウ
第二夜 翼の名前、花の名前(二)
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る。会いたくても会えないくらい遠く」
「そ、そうですか。無茶を言ってすみません」

 気まずい沈黙が下りる。普段なら適当に話題を振るくうも朽葉の思い詰めた表情には太刀打ちできない。

 沈黙を破ったのは沙門だった。

「朽葉。すまんが新しい茶を淹れてきてくれんか。この暑さに飲み過ぎた」
「あ、はい。分かりました」

 朽葉は急須を持って部屋を出て行った。くうはつい溜めていた息を吐いた。

「気詰まりにさせてすまんな」
「いいえ。私こそ朽葉さんにご不快な思いをさせたようで、すいませんでした」

 おそらく朽葉は例の彼岸人の片割れに特別な感情を抱いていたのだろう。帰ってはいない、しかし逢えない。辛いに違いない。

 沙門にまた気を遣わせないよう、くうは疑問を話題に変えた。

「朽葉さんは尼さんなんですか?」
「うーむ……」

 沙門は何ともいえない表情を浮かべて頭を掻いた。

「出家はしとらんが……心映えはすでに尼と変わらんな。こんなご時世だから仏門に入ると厄介だと止めたんだが」

(あ、そっか、廃仏毀釈。でも心境は尼さん? どういう意味だろ)

 歴史的に尼というキーワードが当てはまるものを脳内検索して、くうは大奥を思い出した。御台所は将軍の死後に再婚しない意味も込めて出家するのが慣例だった。

(まさかご主人が亡くなったとか!? あの歳で本当に未亡人!?)

 晩婚が進む時代に生まれたくうにはカルチャーショックもはなはだしかった。くうの親も晩婚組で、母など父と結婚した時は三十路だった。

(世界観が色々違いすぎるよ〜。ほんとに異世界なんだぁ)

 そう、異世界、なのだ。帰り方も分からない異郷。

(前の人はどうやって帰ったんでしょう。くうはここに来る時はゲームしてましたけど、その人達も体感型ゲームから飛んじゃったんでしょうか。六年前っていうとアミューズメントパークはなかったから、限られた場でプレイできる立場の人ってことに……)

 障子が開いた。くうは思考を中断する。

「お待たせしました、沙門様」

 お茶のお代わりを持って入ってきた朽葉に対し、くうは先ほどとは異なる目を向ける。もしかしたら未亡人かも、という可能性は急に朽葉を大人びた女性に変えた。

 沙門の湯飲みに冷茶を注ぎ足す朽葉と、一瞬目が合う。
 朽葉は、微笑(わら)った。

(朽葉さんの笑顔、ふわって咲いたお花みたい。穏やかだけど少し儚げで、女のくうでも見ててドキドキします)

 座り直した朽葉は再び真面目な顔をする。ああ続くんだ、とくうも背筋を伸ばし、耳を澄ませた。

「続きを話そう。――彼岸というのはそもそも神域を指す。この世の者にとってあちらの世の人間は神に等しい存在、天人のようなも
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