高校2年
第四十四話 信頼や
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センターの鷹合が声をかける。翼は頷くが、レフトのポジションは慣れてきているはずなのに、この日に限っては勝手が違った。ブラスバンドを含めた相手応援団の声、内野席の観客の入り……まるで別世界に居るようで、全く落ち着かない。
「……ん?」
しかし、ここで翼は気づいた事があった。
相手アルプスの一角で、自分に手を振っている人が居る。翼は目を凝らした。
「……大澤さん達じゃないか!」
相手アルプスに陣取っていたが、自分に手を振るその人達は、中学の時一緒に草野球をしていた近所の大人達だった。見知った顔の大人達。昼間から仕事もそこそこに野球なんかしていた困った人達。自然と、翼は笑みがこぼれた。
急に、心臓の拍動が大人しくなった。
現金というか、抜けているというか、試合のプレッシャーが、どうでも良くなった。
(……おー、出てきよったな、葵さんの彼氏。調子こいてんなよ、今そこに打っちゃるけん)
翼がレフトに入った事で、打席に立つ安里の力も抜ける。先発しては2点を失い、4番としてはここまで無安打。全く良い所が無い分、気負いもあったが、この選手交代で出来た間が、ガス抜きとして作用した。
(これでも喰らえーッ!)
カーン!
一死一、二塁。普通、ライト方向を狙ったりするものだが、ここで安里は思い切り癖球を引っ張った。打球は鋭いゴロになって三遊間を襲う。
「うぉぁあああ」
後2mズレていれば、余裕のゲッツーの打球。しかし、思い切り振った分だけ引っ張る事ができ、雄叫びを上げて横っ飛びする枡田の脇を抜けていった。
(来た!)
いきなり打球が目の前に飛んできた翼は、ゴロに向かって前進する。出だしは思い切って、そして打球の直前では少し歩幅を合わせ、グラブでボールをすくい上げる。練習通りのプレーがそのままできた。
バシッ!
翼のバックホームは、ピタリと宮園のミットの中。二塁ランナーは、三塁に止まったままだった。三龍アルプスからは拍手。そして、南学アルプスの一部からも拍手。
「あー良かったぁ!やらかすかと思った…」
内野席では、葵がホッと胸を撫で下ろしていた。本人以上に、翼がどきっとした。
(さすが、守備固めに使われるだけあるな)
南学ベンチでは、知花がニヤと不敵な笑みを浮かべながら翼を見つめていた。
「タイム!」
しかし、これで失点がとりあえず防がれただけで、ピンチを脱したわけではない。むしろ一死満塁、勝ち越しの大ピンチだ。6回のピンチより、尚更余裕がない。この試合2度目のタイムがとられ、マウンドに内野陣が集まる。
「一点もやれねぇぞ」
宮園は険しい顔で、内野手全員を見た。
「前進守備で、ホームゲッツー。とにかくホームでアウトとるぞ。OK?」
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