暁 〜小説投稿サイト〜
トワノクウ
トワノクウ
第二夜 翼の名前、花の名前(一)
[2/3]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
ではない。当然、せっせと敵を退治して溜めたコインは泡と消えた。今のくうは無一文だ。

「このあと沙門とこに行くんだろ。あいつにつけとくよ」
「ありがとうございます。診ていただいて、少し気持ちが楽になりました」

 老婦人はくうの頭を撫でる。母のように髪が乱れないような繊細さではなく、わしゃわしゃといった感じにだ。

「いい子だね。こんなになっちまって大変だと思うけど、頑張るんだよ」

 くうははにかんで肯いた。




 しばらくすると、助けてくれた女が迎えにきた。彼女の育ての親である僧侶が、くうの相談に応じてくれるというので、くうは老婦人に礼をしてその家を出た。
 何故か老婦人は彼女に対して怯えたふうだった。嫌な感じが、した。

「体はもういいのか?」

 女は優しく聞いてきた。こうして見ると本当に美人だ。スタイル抜群で目がぱっちりしていて、ただのモデルとは違った魅力を感じる。

「もう平気です。怪我の治りも早かったみたいで」
「そうか。それはよかった」

 女性の半歩後ろを歩きながら、街並みを観察する。

 行き交う人の服装は基本的に着物。髪型は髷か結い上げ。二階以上の建物はなく、男子がジャンプすれば届きそうな高さの家並みが続いている。背が高いのは遥か遠くの城と鐘楼くらいだ。

(ゲームの中とちっとも変わらない。ここってもしかして――)

「あの、ここ、何ていう街ですか?」
「江戸……いや、元・江戸というべきだな。つい最近まではそう呼ばれていた」
「今は何て?」
「東の京と書いて、東京、というそうだ」

 ――明治維新。

(つまり、そういうこと)

 くうが迷い込んだ世界は過去の日本。

「東京になったのはこの年ですか?」
「おととしだ。お上が行幸されて江戸は東京と名を改めた。お上が中心の世を作るのだとな。もう藩もなければ幕府もない。時代が変わったと人は口々に言うが、私に言わせれば迷惑この上ない。政府の勝手で、寺を運営するのがどれだけ難しくなったか……」

 女はぶつくさと不満を垂れ流す。

(そっか、神仏分離令による廃仏毀釈)

 民衆は菩提寺と定めた寺から教導を受ける。寺を通じて幕府の統治を受けていたのである。それが、トップが天皇に代わってからは神道を国策としたので、ここぞとばかりに民間の仏教排斥運動が起きた。明治四年までは混乱は続いたはずだ。

(日本史好きだったけどこんなふうに役立つとわ。びっくりです)

 往来を行き交う数こそ少ないが、和洋折衷や洋装の日本人、金や銀の髪の人、黒い白い肌の人。だから、くうは目立たないのか。

「そういえば名前も聞いてなかったな」

 女がくるりとふり返った。くうは居住まいを正す。

「くうです。篠
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2025 肥前のポチ