トワノクウ
第二夜 翼の名前、花の名前(一)
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ではない。当然、せっせと敵を退治して溜めたコインは泡と消えた。今のくうは無一文だ。
「このあと沙門とこに行くんだろ。あいつにつけとくよ」
「ありがとうございます。診ていただいて、少し気持ちが楽になりました」
老婦人はくうの頭を撫でる。母のように髪が乱れないような繊細さではなく、わしゃわしゃといった感じにだ。
「いい子だね。こんなになっちまって大変だと思うけど、頑張るんだよ」
くうははにかんで肯いた。
しばらくすると、助けてくれた女が迎えにきた。彼女の育ての親である僧侶が、くうの相談に応じてくれるというので、くうは老婦人に礼をしてその家を出た。
何故か老婦人は彼女に対して怯えたふうだった。嫌な感じが、した。
「体はもういいのか?」
女は優しく聞いてきた。こうして見ると本当に美人だ。スタイル抜群で目がぱっちりしていて、ただのモデルとは違った魅力を感じる。
「もう平気です。怪我の治りも早かったみたいで」
「そうか。それはよかった」
女性の半歩後ろを歩きながら、街並みを観察する。
行き交う人の服装は基本的に着物。髪型は髷か結い上げ。二階以上の建物はなく、男子がジャンプすれば届きそうな高さの家並みが続いている。背が高いのは遥か遠くの城と鐘楼くらいだ。
(ゲームの中とちっとも変わらない。ここってもしかして――)
「あの、ここ、何ていう街ですか?」
「江戸……いや、元・江戸というべきだな。つい最近まではそう呼ばれていた」
「今は何て?」
「東の京と書いて、東京、というそうだ」
――明治維新。
(つまり、そういうこと)
くうが迷い込んだ世界は過去の日本。
「東京になったのはこの年ですか?」
「おととしだ。お上が行幸されて江戸は東京と名を改めた。お上が中心の世を作るのだとな。もう藩もなければ幕府もない。時代が変わったと人は口々に言うが、私に言わせれば迷惑この上ない。政府の勝手で、寺を運営するのがどれだけ難しくなったか……」
女はぶつくさと不満を垂れ流す。
(そっか、神仏分離令による廃仏毀釈)
民衆は菩提寺と定めた寺から教導を受ける。寺を通じて幕府の統治を受けていたのである。それが、トップが天皇に代わってからは神道を国策としたので、ここぞとばかりに民間の仏教排斥運動が起きた。明治四年までは混乱は続いたはずだ。
(日本史好きだったけどこんなふうに役立つとわ。びっくりです)
往来を行き交う数こそ少ないが、和洋折衷や洋装の日本人、金や銀の髪の人、黒い白い肌の人。だから、くうは目立たないのか。
「そういえば名前も聞いてなかったな」
女がくるりとふり返った。くうは居住まいを正す。
「くうです。篠
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