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戦国異伝
第百六十二話 ならず聖その六

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「もう一つ置きたいがな」
「もう一つですか」
「都、天下の鬼門と裏鬼門にはそれぞれ比叡山と高野山がある」
「それで充分ではないと」
「法はよい、しかしじゃ」
「もう一つですか」
「東の道、それに南西の道じゃ」
 どちらも都に向かう主要な道だ。
「そこを守護するには武を考えておる」
「だから安土にですか」
「そうじゃ」
 その理由もあるというのだ。
「無論あそこが武田、上杉に備えやすく天下を治めるにもいい場所であるからじゃが」
「それに加えて」
「あそこの道を守護したい」
 その武でだというのだ。
「そして南西の道もな」
「あの道もですか」
「どちらもじゃ」
 東だけでなく南西もだというのだ。
「わしは守護したいと考えておる」
「そこまでお考えですか」
「どうもな、天下には色々とおる」
「よからぬ者が」
「そう思う」
「しかし殿は」
 蒲生は怪訝な顔で信長に問うた。
「そうしたものや」
「化けものの類はじゃな」
「信じられぬ筈でしたが」
「最初はそうじゃった」 
 それはその通りだとだ、信長も認める。
 だがそれと共にだ、彼はこうも言うのだった。
「しかし今はな」
「勘十郎様の時からだと聞いていますが」
「うむ、あの者は」
「津々木蔵人ですか」
「闇の服を着ておった」
「あの門徒達の様に」
「そっくりじゃ、何者かわからん」 
 信長にもだ、そこは全くだった。勘のよさでも知られている彼でも今はそこまで察することが出来なかったのだ。
「どちらもな」
「そしてあの者達から」
「得体が知れぬ、それこそな」
「化けものですか」
「怨霊か、そうしたものではないか」
 信長は考える顔で言う。
「得体の知れぬ者達は確かに天下におる」
「そしてこの天下を乱さんとしていますか」
「わしに来るのなら好きなだけ相手をしてやる」
 信長は彼に来るのならどうということはないと考えていた、それならば返り討ちにするだけだと考えている。
 だがだ、そうではないと察してなのだ。
「都は天下の心臓、そこに入られてはならん」
「だからこそ比叡山と高野山を健全にし」
「それを保たせる様にしてな」
「そして都への道に武の結界を置きまするか」
「無論その城は織田家の本城となる」
 それとと共にだというのだ。
「それが安土じゃ」
「あの城ですか」
「五郎左が築いておるな」
 その天下の結界ともなる城をだというのだ、それと共に信長が座し織田家の拠点となる城だというのだ。
「あの城はそうした意味もあるのじゃ」
「そうでしたか、では墓石や地蔵の像だけでなく」
「面白いものを築いておるな」
 ここで信長の顔が笑みになった、そのうえでの言葉であった。
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