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戦国異伝
第百六十二話 ならず聖その五
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「このわしをな」
「ううむ、どういうことじゃ」
「まさか、こ奴魔王ではないのか」
「御仏の力を天下に使う為にか」
「そうしたというのか」
「そういうことじゃ、そして僧兵は武じゃな」
 今度は彼等のことを言う信長だった。
「僧は法で天下を守るもの、そこに武が入ればな」
「どうなると」
「どう言うのじゃ」
「法が濁る、それもまた天下が乱れる一因ではないのか」
 こう真剣な面持ちで言うのだった。
「武士が天下の武を司るのじゃ」
「では僧兵をいらぬというのも」
「そして荘園も」
「荘園もいらぬ」
 これからはというのだ。
「荘園がなくとも檀家を置くからのう」
「寺はそこから生きよと」
「そして荘園を守る必要はないというのか」
「そこでも僧兵はいらぬ」
 そうなったというのだ。
「御主達も武具を手にすることはないのじゃ」
「何と、そこまで考えておったとは」
「織田信長、何という者」
「我等はこの様な男を相手にしておったのか」
「これ程までの男を」
「御主達は高野山、いや己の考えだけを見ておった」
 ここで信長の言葉が厳しくなった、その顔も。
「しかしわしは違う。わしは天下を見ておる」
「だからこそか」
「安土も僧兵も」
「そうしているのか」
「そうじゃ、御主等とは違う」
 またこう言った信長だった。
「それを今御主達自身に言ってやったのじゃ」
「くっ、そうであったか」
「この戦我等の負けじゃ」
「どうにもならぬかったわ」
「さて、わしは一度許した者には寛容なつもりじゃが」
 ここで信長の言うことがまた変わった、今度言うことは。
「そこから歯向かった者には容赦はせぬ」
「わかっておる、好きにせよ」
「既に覚悟は出来ておるわ」
「よき心掛けじゃ、御主達を許す訳にはいかぬ」
 それでだ、どうするかというと。
「御主達を寺に帰す。寺で処罰を受けよ」
 こう言ってだった、信長は彼等を寺に送り返した。まだ寺社奉行は置いておらずここは寺に処罰を任せることにしたのだ。
 高野山は彼等を全員処罰した、これでこのことは終わった。信長はあらためて軍勢と門徒達の方へ向かわせた。
 その中でだ、蒲生が信長に問うた。
「殿、高野山のことですが」
「戦のことじゃな」
「はい、まさかああ仰るとは」
「そのままのことを言ったまでじゃ」
 これが信長の返事だった。
「わしがしておることのな」
「それがそのままですか」
「あの者達を討ったな」
「その心を」
「人を攻めるよりもな」
「その心を攻めるべきですか」
「だからそうした、あの者達だけに言った言葉ではない」
 朝に言ったその言葉はというのだ。
「天下に言ったのじゃ」
「殿のそのお考えを」
「そうじゃ、そうしたのじゃ」

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