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トワノクウ
トワノクウ
第一夜 空し身(二)
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、と明らかに鞘から真剣を抜くのとは異なる音がした。潤が真剣稽古で刀を抜いた時の音ではなかった。

 びちゃ。びちゃ。生暖かい液体がドレスを濡らす。最初、くうはそれを己の血液だと思った。
 だが、待てども先ほどのような鮮烈な痛みは訪れない。
 くうは勇気を出して腕を頭からどけた。

 ざっ。草履が地面を鳴らすのが見えた。

(女の、人?)

 まだ若い。二十代と思われる。墨染の衣に、豊満な体型を浮き立たせるほどぴたりと着た袈裟。その出で立ちから尼と分かるのに、ひどく女は色めいていた。

 見物客から歓声が上がった。

「妖祓いの方が来てくださった!」
「早く鵺を退治しておくれ!」

 女は答えず、刀から血を払って再び猛獣に斬りかかった。
 くうが刀身の鈍いきらめきに魅入られる間に、女は刀を一閃、猛獣の首を斬り裂いた。

 ぐあああああああああっ

 猛獣が上げる悲鳴にくうは竦み上がる。しかし、猛獣はそれ以上の追撃をせずにどうと倒れ、水面のように地面に沈んでいった。わっ、とまた大きな歓声が上がった。

 女は刀身から血を払うと、猛獣からとび立った小人に向けて刀を薙ぐ。
 刀は小人を斬ることなく、小人は空中に溶けるように消えた。

「やはり仕込み刀は勝手が狂うな」

 女は肩までの黒髪を隠すように真っ白な(もう)()を頭からかぶり、くうをふり返った。

「平気か? 鵺に襲われるなんて、……その髪や風体といい、まさかお前も彼岸人か?」
「ぬ、え? ひがんび、と?」
「鵺はあの獣。小さいほうは夜行という」

 女はくうに手を伸ばす。くうはためらいながらも手を出す。女はくうの手を取ってくうを立たせた。手にマメがたくさんある。

「まずここを離れるぞ。目立つのはお前も本意ではあるまい」

 見物客の視線は女一人に注がれている。英雄に対する煌々しいものもあれば、期待外れを訴える胡乱なものもある。こわい。くうは女の言葉に従った。




 女に連れられて見物客の間を抜け、往来を歩く。
 応急手当はしてもらった。医者に連れていってくれるというので、くうは大人しく女に手を引かれて歩いた。

 あらためて見ると、その女はまさに「大人の女」だった。何というか、そう、未亡人が出す空気に近いものを彼女は持っている。

「彼岸人とは、こことは異なる世界から来た人間を言う。最近流れてくる外国人とは違う、完全に異世界の人間だ」
「異世界……」

 くうは立ち止まり、女の手を離した。

 パンフレットにはそんなこと一言も書いてなかった。生活冒険RPG。普通に明治時代の人間になれるはずではないのか。異世界ファンタジーの要素などなかったではないか。


 ――アクシデントがご
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