トワノクウ
第一夜 空し身(一)
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そこのシステムを使った全然無関係の会社が開発したのだけどね」
キーボード兼ドラムの根岸春樹が説明を引き継ぐ。
「お客は好きな職業をセレクトして、昼は明治時代を体感しつつ、夜は闇に潜む魑魅魍魎を退治する。ま、生活冒険RPGってとこだな」
「でも、明治なのになんで英語なんだろう?」
潤の疑問はしかし、フィーリングじゃないん? という根岸の深く考えない一言でスルーされた。
菜月野、夕日坂、根岸の順でアトラクションの受付に入っていくのを見送りながら、くうは潤が疑問に思ったことを考えてみた。
(明治を舞台にするなら漢字を重ねたほうが雰囲気は出る。それをあえて英語で、しかもありふれた外来語を並べただけの名前にした理由はなんでしょう?)
「くう、中原、ボーッとしてんな。あたしらも受付行くよ。もうあいつら先行っちゃったよ」
「え、ほんと!? ごめん、すぐ行きます」
くうは潤と共に慌てて薫を追いかけた。
くうたちは駅の改札のような受付でフリーパスチケットを係員に見せる。
係員は入場証です、と言ってくうの手の平と潤の手の甲に円形のスタンプを押した。くうはそれを潤と見せ合って、へらっと笑った。
「待っててくれてありがと、薫ちゃん」
「三人ずつらしいからね。あたしがあっちに混ざると人数が合わない」
「うん。だから、こっちに来てくれてありがと」
不機嫌そうに顔を背けた薫の二の腕にも、例のスタンプがあった。円形でアトラクション名もイラストもない、無味乾燥なデザイン。
「東雲ってさ」
係員に誘導されながら潤が口を開く。小声だ。
「篠ノ女さんの実家なんだよね」
「はい。お父さんが立ち上げた会社です。結構有名ですけど、本社はお父さんとお母さん、それにお父さんのお友達だけの小さなとこなんですよ。大きな会社にするのは窮屈だって」
「社長のくせに。親子揃って無欲なのは血筋なわけね」
「違うよ長渕さん。篠ノ女さんは無欲なわけじゃなくて、したいことの方向が一般からずれてるだけ」
「じゅ、潤君、ヒドイです……」
「ごめん! そういうつもりじゃ」
「――付き合ってらんない」
こうやって他人と話して笑い合うのがこんなに楽しいなんて知らなかった。
小学校といわれる時分には、くうは自宅の通信教育だけで単位と資格の数々を取った。この世代ではこれも普通のことだから、人と接さなくても生きていけるのだと信じていた。
潤に、薫に、出会うまでは。
薫からは自分の中にない価値観や考え方をいつも教えられる。
潤といるとぐちゃぐちゃな自分の内側が透明になっていく。
二人になら、百回でも千回でも「すき」と言える。
くうは潤と左手で手を繋ぎ、先を行く薫に追いついて右手
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