第5章 契約
第89話 吸血鬼伝説
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もし、また現れたりしたら、私達はどうしたら良いのでしょうか?
人々は不安げに、口々に、そうイーヴァルディに聞いた。
しかし、イーヴァルディは笑いながら答えた。
その時は私を呼びなさい。
私は何処に居ても駆けつけるでしょう、と。
以来、この辺りには吸血鬼が現れる事もなく、
人々は平和に暮らしました、と、言う事です」
淡々とした口調。更に、俺にだけ聞こえたら十分と言う程度の音量で語られた昔話。何処の世界にも存在して居る有り触れた英雄譚。
確か以前に聞いた別の話の中にも、そのイーヴァルディと言う勇者が登場した物語が有った以上、そのイーヴァルディの物語は他にも存在して居る、ハルケギニアではごく一般的な昔話の主人公、と言うキャラクターなのでしょう。
但し……。
「そう言えば、この地で吸血鬼騒動が始まってから、被害者が出る前の晩は森で魔物の鳴き声がする、と言う証言が有ったはずやな」
いや、あの資料にはもっと違う表現で為されて居ましたか。
曰く、オオカミとは違う聞いた事のない獣の鳴き声。もしくは鳥。そして、まるで木こりが木を伐り倒しているような音が響いて居た、と言う証言も有りましたか。
しかし……。夜の翼。山の心臓。それに、仮面の吸血鬼か……。
「タバサ、質問や」
かなり真剣な表情で、そう問い掛ける俺。
そう。未だ確実とは言い兼ねますが、この今、集まりつつある情報から類推出来る今回の事件の真相は、単純な吸血鬼騒動などと言うレベルの事件などでは納まりそうもない雰囲気。どう考えても、世界存亡の危機と言った方が良いレベルの事件。
少なくともハグレ吸血鬼の保護や討伐と言うレベルの事件では無さそうです。
俺の問い掛けに対して、彼女に否はない。普段通り、真っ直ぐに俺を見つめ返した後、動いたかどうか判らない程の微かな仕草で首肯いて答えてくれる彼女。
この仕草と視線は信頼の証。
「ハルケギニア世界のこの辺りに、大型の食肉目ネコ科に属する猛獣は棲んで居るか。例えばライオン。豹。それに……ジャガーなんかは」
オオカミ以外の猛獣の声から類推出来る……そして、現実の世界に存在して居る猛獣の名前を例に挙げる俺。但し、これは意味不明でしょう。
尚、中世ヨーロッパには、この例に挙げた猛獣はいなかったはずです。ただ、確かライオンに関しては遙かな古代。大体、一万五千年ほど前の時代ならば、このガリア周辺にも生息していた事が確実だったとは思いますが。
このルルドの北に存在しているラスコー洞窟や、ショーヴェ洞窟の壁画に、おそらくライオンを描いた物だろうと言う壁画が残されていたはずですから。
この問い掛けがなされた瞬間、俺の足元から上目使いに俺を見上げていた白い猫の髭が揺れ、右側
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