第5章 契約
第89話 吸血鬼伝説
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其処まで考えた瞬間、平野部を吹き抜けて来た冷たい風に背筋を撫でられた。
その予想以上の冷たい感覚に、思わず身を縮ませる俺。この背中に走った悪寒が、冬の属性に彩られた風の所為だけだと思いたい……。
……のですが。
天候は変わらずの冬晴れ。風は冷気を孕みながらも、その質は生。俺が警戒しなければならないような異界の気配は何処にも存在しない。そんな真冬の日常の中に、何故か不穏な物を感じる俺。
しかし、
「小僧、臆病風に吹かれる前に、自分の仕事を熟して欲しいんやけどな」
風に髭を揺らし、耳をピンっと立てた白猫……姿の風の精霊王が自らの前脚を嘗めながら、そう話し掛けて来る。
俺の仕事。それは……。
手の中に現れる愛用の笛。いや、愛用の笛を如意宝珠で再現した物。
そして……。
奏で始められる哀調を帯びたメロディ。その瞬間、空気を結晶化させるような澄んだ旋律が周囲へとゆっくりと広がって行く。
更に、その後を追うように続く、もう一筋の音色が重なり――
その瞬間。まるで堅い氷の如き常識に覆われた世界が、ふたつに重なるその音色に触れる事により、僅かに溶け始めたように感じられた。
そう。ふたつの異なった笛から発するのは長嘯の音色。これは良く使用する土地神を召喚する為の仙術ではない。これは鬼。つまり、死した人間の魂を呼び寄せる笛の音。
但し、俺にはこのハルケギニア世界に関係する冥府のシステムは判りません。まして、確実に輪廻転生のシステムに支配された世界だと言う確証が有る訳でも有りません。
しかし、タバサには何らかの形で前世の記憶が存在して居て、その彼女がこの世界で生を受けた以上、俺の暮らして居た地球世界と変わらないシステムに支配された世界の可能性の方が高いでしょう。
まして、死後間もない人間には、蘇生魔法が効果を現した例も幾つか有りますから。
ただ……。
ゆっくりと、まるで波紋を広げて行くかのように周囲へと拡散して行く嘯呼魔鬼の笛の音。
その幽玄の音色が枯れ草色の大地を満たし、冬枯れの森を彩り――
しかし……。
しかし、次の瞬間、先に俺の笛が。次いで俺の右隣にすぅっと立つ蒼い少女が、相次いで術の行使を止めた。
「矢張り、無理やったか」
タバサが差しのべた手に、その新雪色の身体を、まるで体重の無い者の如きしなやかな身のこなしで跳び上がり、其処から俺をやや上目使いに見つめる白猫。何と言うか、色素の薄いタバサが白猫を擁く様子は、妙に様に成って居るのですが。
ただ、そんな見た目の事よりも今は、
「風の精霊王。もしかしてこうなる事を予測して居たと言う事なのですか?」
こうなる事。確かに、この世界の
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