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蒼き夢の果てに
第5章 契約
第89話 吸血鬼伝説
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 もっとも、そんな事は最初に彼女を見つめた時から判って居る事なのですが。
 口訣も導引も省略。俺を試すと言うのなら、術の精度を上げる……能力を高める行為をこの白猫の前で行う訳には行きません。

 確かに、ホンネの部分を言わせて貰うのならば、この世界やガリアがどうなろうが俺の知った事では有りません。まして、一度や二度、洞統の戒律を破ったトコロで、俺が完全に道を踏み外したと見なされる訳でもないとは思います。しかし、それでも――結構、良いヤツラも住んで居る世界です。その世界が危機に陥って居るのなら、流石に見捨ててタバサやその他の俺に近い連中だけを連れて他所の世界に逃げる訳にも行かないでしょう。
 その為……。自分の能力の限界で足掻けるだけ足掻く為には、風の精霊王の助力は当然、必要ですから。

 漢ってヤツは空元気と意地だけで立って居るものだ、……と言う事を証明するような思考に囚われながらも、それでも俺の才は元々、見鬼。相手が人間に擬態する能力がかなり高くない限り、能力を発動させた俺を騙し通す事は難しい、はず……。
 ほんの少しの陰の気。失敗したらマズイかな、と言う気持ちの中に術を発動させる俺。その俺の瞳に映ったのは……。

 寝台の上に眠る、春の色彩の女性に重なる姿。長い黒髪を持つ東洋風の女性。その中に微かな既視感。
 これは――――

「水妖……おそらく白蛇の精。但し、蛇と言っても邪まな存在ではない」

 そう答える俺。しかし、続けて……。

「ただ、妙に印象が薄い。これは、魂のほぼすべてと魄の一部を失って居る状態。おそらく彼女は、そう遠くない未来に命を落とす」

 更に、その彼女から繋がる因果の糸が見えない以上、彼女の失った魂魄を肉体に取り戻すのは難しい。
 普通の場合、肉体から魂魄が剥がれ落ちたとしても、肉体と魂魄とは強力な因果の糸で繋ぎ留められている為に、そう簡単に魂魄が失われるなどと言う事は有りません。脱魂状態。所謂、一般に言われる幽体離脱のような状態でも、魂魄と肉体の間には強い絆に因って結ばれているのが、俺の目には映るのですから。
 妖怪として有名な轆轤首(ろくろくび)は、その幽体離脱した魂と、肉体の間に繋がる因果の糸を霊視した状態だとも言われて居ます。

 それだけ太い……。首と勘違いするほど太く、強く繋がった絆を俺の霊視が視認出来ない以上――
 これは間違いない。彼女は……。

「吸血鬼。いや、吸魂鬼の犠牲者と言う事ですか、風の精霊王」

 これは、このルルドの村に起きて居る事件は、最低でも二種類以上の吸血鬼が動いて居る事件だと言う事に成りますか。
 普段通り、自らの行く先に用意されている事件の厄介な内容に頭を抱えて唸りたい、そんな思考に苛まれながらも、それでも、感想を一度の――深いた
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