第33局
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「塔矢と奈瀬のプロ試験がいよいよ開始かぁ」
「奈瀬さんは院生の成績で予選免除だって言ってたもんね。まずは塔矢君の予選からだね」
「まぁ、塔矢なら予選は問題ないだろ」
「…緊張するとも思えないもんね」
―よほどのことがない限り、問題はないでしょうね。彼ならば。今度の”ねっと対局”も楽しみです。
いつものヒカルの部屋で、今日もヒカルとあかりは佐為を交えて対局していた。もうすぐ夏休みで、プロ試験の予選開始も目前だった。ただ、予選程度でアキラがもたつく訳がないと、3人の意見は一致していた。ヒカルは当然として、あかりもアキラの実力はすでに思い知らされていた。
また、ネット碁の対局相手が増えた佐為は、ここ最近上機嫌が続いていた。塔矢名人や緒方はさすがに本人たちが忙しく、まだそれほどの対局はこなしていない。だが、アキラとの対局は、あかりと奈瀬の次に増えていた。
「そういえば、あかりはどうする?そろそろ院生に入ってみるか?」
「うーん…」
ヒカルは、このまま着実に力をつけていけば、あかりもプロになれると踏んでいた。幼少の頃からヒカルと佐為相手に打ち続けてきた経験は、以前の世界とは比べ物にならないくらいあかりの力を大きく引き伸ばしていたのだ。ただ、まだ多くの相手と打つという面では経験が不足しているとも感じていた。ネット碁もアキラたちとの対局も、ここ最近での話だ。まだまだ足りてはいない。
碁は、上手相手ばかりではなく、下手と打つこともまた大切だ。相手の悪手や無理筋を上手に咎めて仕留めるのもまた経験が必要なのだ。筋は悪いが力勝負が得意といった相手との碁は、ヒカルたちが相手ではなかなか経験を積むことができないのだ。
無理が通れば道理が引っ込むとの言葉にもあるように、無理筋は上手に咎めてこそ無理筋となるのであって、咎め損ねれば一気に受け手が悪くなることとなる。それもまた碁の一面なのだ。2人で交互に打つことでしか成り立たない、碁の面白さともいえる。
そういった意味でも、多くの打ち手との対局することになる院生での経験は、あかりにとってプラスになるとヒカルは考えていた。また、単純にプロ試験を受けることだけを考えても、院生になっておいて損はない。院生の上位8名は、予選免除でプロ試験本戦から受けれるのだ。
あかり自身も、自分の力ではまだ不足していると感じていた。実際、春に始めたネット碁の成績は、黒を持ったときに比べて白を持ったときが若干下がる。今までヒカルや佐為相手ではずっと黒を持っていたので、経験が足りていないのだ。特に、ガチガチの力勝負はやや苦手としていた。
あかりは、これから先もずっとヒカルのそばにいたかった。今は当然のようにヒカルのそばにいるが、このままの時間が続くことがありえないのはわかっていた。
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