高校2年
第四十三話 裏目
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を送る。三塁ランナーの剣持、打者の渡辺、両方が頷いた。
(スクイズ……)
渡辺は一瞬だけ、興を削がれたように感じた。
しかしすぐに、気持ちを引き締める。
(形なんかこだわってられん。今欲しいのはタイムリーやなくて、一点や)
知花がセットポジションに入る。三塁ランナーの方は見ない。渡辺は心の中でよし、と言った。完全に、自分との勝負に集中している。
知花がモーションに入ると同時に、三塁ランナーの剣持がホームに突進する。渡辺は左足を外側に開いてバットを横に寝かせ、バントの構えを作った。
知花の左腕からボールが放たれる。ボールはストライクゾーン、真ん中低めにやってくる。
十分バントできる。そう思った。
そのボールは、さっき空振りした球と同様、低めにグン、と落ちた。
(スクリュー!!)
渡辺は膝を曲げ、身を屈めて落ちるボールに対応しようとする。しかし、ショートバウンドするほど低い球には、バットは当たらなかった。
「サード!」
ショートバウンドを体で止めた捕手の柴引が、目の前のボールを拾って、すかさず三塁へ投げる。三塁ランナーの剣持は、渡辺の空振りを見て慌ててベースに戻ったが、柴引の送球が遥かに早く三塁に到達していた。
「……アウトー!」
3塁審の手が上がり、三塁側アルプスからの悲鳴と、一塁側アルプスからの大歓声がグランドに交錯した。
渡辺は、頭の中が真っ白になった。
「よう外したなー!」
「野生の勘っちゅーやつか!?」
思いも寄らない形でピンチを脱した南学ナインには、解放感の笑顔が溢れた。声をかけられた知花は、苦笑いして仲間に言う。
「いや、マジで、たまたま低めに球がいっただけやけん。いや、ホンマラッキーやったわ〜」
「………ッ…………!!」
三龍ベンチでは、浅海が両手を握りしめ、言葉を発する事も出来ずに俯いていた。また、采配が裏目。自分のせいで、絶好のチャンスを逃した。
初球の空振りを見ただけでスクイズを命じるとは、焦っていたのは渡辺の方じゃなく、自分だったのではないのか?あの6回の牽制死を……取り戻そうとしていたのは、実は自分自身ではなかったか?
……それに、今頃、チャンスを潰してから気がつくなんて!
「ストライクアウト!」
グランドでは、渡辺が三振し、スリーアウトとなっていた。
8回の表、三龍は同点に追いついたが、しかし同時に勝ち越しのチャンスも逃した。
事実上の甲子園決定戦は、いまだ双方譲らず。
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