高校2年
第四十一話 トリックプレー
[3/4]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
の試合の行く末を大きく左右するのは間違いがない。
「うおっ」
「ストライク!」
枡田は初球、バントの構えをするもバットを引いた。ファースト、そしてサードが大きく前にダッシュしてきていた。余りに転がせるゾーンが少なく、サインは送りバントだったが自分の判断でやらなかった。素直に転がしていればゲッツーになったであろう。この場面は南学サイドも必死である。神谷監督が、今は立ち上がってベンチの最前列で指示を送っていた。
(このバントシフトじゃ、中々送るのも難しいな。でも、逆にヒットゾーンはこの上なく広い。翁長のこの遅い球なら、スタートも切れるだろう。相手はバントをさせに来ている。ランナーへの警戒もいくらかは……)
浅海はここでサインを変えた。
ヒットエンドラン。思い切ったバントシフトを敷いてくる南学サイドに、お返しとばかりに仕掛けていく。
(……エンドランか。ここは一、三塁を作る。)
サインに頷いた渡辺は、ジリジリと広めにリードをとる。前へ、前へ。気持ちは攻め。
水面地区の準決勝・水面海洋戦でも、浅海の思い切った采配がビッグイニングにつながった。この作戦を突破口にしてやる。渡辺は意気込んだ。
翁長がセットポジションに入り、ランナーの渡辺をジッと見た。渡辺と目が合う。その視線を少し保った後に、不意に目線をホームに戻した。
「やらせェー!」
一塁手の安里がそれと同時に声を上げ、送りバントに備えてダッシュの一歩目を踏み出した。
(スタート!)
渡辺は、ホームを見た翁長、一塁ベースを離れ始めた一塁手の安里の様子を見て、ほぼ無意識的に二塁方向に体重を乗せ、スタートを切りかけた。
その瞬間が勝負の分かれ目だった。
パシッ!
「なっ……」
渡辺が二塁に体を切った瞬間、翁長は再度視線を一塁に戻し、牽制球を投じた。安里も一歩目を踏み出しただけで、すかさず一塁ベースに戻って牽制球を受ける。渡辺は完全に逆を突かれた形になり、懸命に一塁に戻るが、そのヘッドスライディングは及ばなかった。
「アウトーー!」
一塁審判の手が上がる。
渡辺はしばらく、アウトになった姿勢のまま動けなかった。大事な追加点のランナー。
それを、まさかの牽制死、痛恨の牽制死で失ってしまった。
「よっしゃー!」
「さすが牽制名人やのー!」
「牽制のが球速かったぞー!」
南学ナインが湧きかえる中、渡辺はとぼとぼとベンチに帰っていった。惨めだった。
(ファーストとピッチャーの呼吸がこれ以上ないほどピッタリだった。……何て牽制だ。それを、この場面で完璧に決めてくるなんて!)
三龍ベンチの浅海はギリ、と歯ぎしりした。
絶好の追加点のチャンスを逃してしまった。しかし、渡辺は責められない。あそこまでタイ
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ