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万華鏡
第七十二話 三学期その十四

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「合わないな」
「美優ちゃんもそう思うのね」
「里香ちゃんもかよ」
「私もこの話を聞いてね」
 ハヤシライスを食べながら語る。
「どうしてもね」
「合わないよな」
「何かね」
「西本さんも飲みそうだったよな」
「そうしたお顔よね」
「夜になったらおちょこ持ってな」
 日本酒である。
「一杯って感じだよな」
「おつまみは塩辛とかね」
「そういう塩気の強いものな」
「けれどそれがなのよ」
「お酒は駄目で」
「ケーキがお好きだったって」
「ううん、やっぱり違和感あるな」
 またこう言う美優だった。
「西本さんとケーキか」
「そうなの」
「確か目茶苦茶怖かったんだよな、あの人」
「鉄拳制裁も辞さない厳しい人だったから」
 背の高い選手は飛び上がって殴ったという、ただ必要だと思った時しか殴らず過剰な暴力は振るう様な人ではなかった。
「怖かったらしいわ」
「だよな、それで有名だったからな」
「それでも慕う人はね」
「今も目茶苦茶多いよな」
「確かに厳しかったけれど」
 それでもだったのだ、西本は。
「公平で誠実でね」
「いい人だったんだな」
「愛情のある人だったのよ」
 野球人だけではない、人間としてだったというのだ。
「あの人はね」
「そうだったんだ」
「そういう人だったから」
「選手の人達も慕ったんだな」
「ただ暴力だけ振るう人には誰もついてこないから」
 このことはどの世界でもだ、日教組の誇る暴力教師達に誰がついていくのか。
「そこにあるものがあったから」
「だからか」
「そう、皆ついていったのよ」
 そして今でも西本を慕っているのだ。
「殴るだけじゃなかったから」
「そういう人滅多にいないわよね」 
 彩夏は里香の話を聞いてしみじみとして言った。
「ええ、本当にね」
「暴力振るうだけの人はいても」
「自分の生徒にもね」
「奥さんや子供にね」
「暴力は最低よ」 
 それはと言った里香だった。
「それはね」
「そうよね、それは」
「ええ、暴力なんてね」
 それこそ、というのだ。
「最低よ」
「それと拳は違うのね」
「また違うわ」
 里香は真面目な顔で彩夏に答えた。
「それも全くね」
「そうよね」
「私もDVの話は聞くけれど」
「それはね」
「ただの暴力よ」
 それに過ぎないというのだ。
「本当に生徒を暴力で怖がらせてそれで従わせる先生なんてね」
「最低よね」
「そういう先生って」
「本当にね。そんな人になりたくないわ」
 里香は顔を顰めさせてこう言った。
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