第七十二話 三学期その十三
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「美味しかったわ」
「それでもかよ」
「美味しかったからね」
「また食いたくなったのかよ」
「そうなの」
だからだというのだ。
「それで今もなの」
「そうか、じゃあ皆一緒だな」
「そうね、ハヤシライスね」
「実際に食ってみるとな」
美優の右手には銀のスプーンがある、それを手にして言うことは。
「やっぱりハヤシライスって美味いな」
「そうよね」
「野村さんが好きだったか?」
「野村さんって?」
「野村克也さんな」
あの有名な名将だった、野球の。
「あの人な」
「へえ、そうなの」
「何か聞いた話だとな」
美優はここで琴乃にこう話した。
「野村さんプロ野球に入ってハヤシライス食ってびっくりしたらしいんだよ」
「ハヤシライス食べてなの」
「あの人の家は貧しくてさ」
父親は日中戦争で野村が母親のお腹の中にいる時に戦病死した、そして彼は女手一つで母に育てられその母が病に倒れると兄に育ててもらった。
その中で南海ホークスに入った、そしてだったのだ。
「チームに入ってな」
「そこではじめてだったのね」
「ハヤシライス食ってなんだよ」
生まれてはじめてだ。
「その美味さにびっくりしたってな」
「ううん、そうだったのね」
「今の野村さんならハヤシライスなんてな」
「何でもないわよね」
「もうな」
何しろベルサーチのスーツに身を包む位だ、外車にも乗って。
「それでも入団したての頃はな」
「物凄く貧しくて」
「ああ、ハヤシライスだってな」
食べられなかったというのだ。
「あの人はな」
「だからハヤシライスがなのね」
「好きらしいんだよ」
「ふうん、そうなの」
「ちなみにあの人下戸だよ」
「お酒飲めないの」
「甘いのが好きみたいだな」
野村の意外な一面であろうか。
「あの人な」
「へえ、あの人飲まないの」
「そうらしいぜ」
「飲みそうなお顔なのにね」
「それが甘いものの方がいいみたいdな」
酒は飲めない、それで甘党だというのだ。
それでだ、里香もこう言ったのだった。
「そういう人結構いるわよね」
「飲みそうで飲まない人だよな」
「そう、西本さんだってね」
「西本幸雄さんな」
大毎、阪急、近鉄を合わせて八回優勝させた名将である。育てた名選手達は今も指導者や開設者として活躍している。
「あの人もだったんだな」
「そう、お酒駄目だったんだな」
「そうなの、お酒は飲めなくて」
それでだというのだ。
「ケーキがお好きだったそうよ」
「西本さんとケーキか」
美優は頭の中で西本のあの頑固親父そのものの顔とケーキを思い浮かべた。そこに違和感しか感じずに言うのだった。
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