第七十二話 三学期その十
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「カレーは王様だからね」
「カレーってそうだったの」
「そうでしょ、カレーを生み出した国はすぐに出て来るでしょ」
「インドね」
「個性強い国でしょ」
「ちょっとやそっとのレベルでなくね」
インドの個性の強さは世界の国々の中でも屈指であろう、この国に匹敵する個性の国は世界でもそうはない。
「強いわね」
「ハヤシライスは普通の洋食だから」
カレーと比べるとだ、どうしても。
「だからどうしてもね」
「カレーよりは弱いのね」
「けれどね」
それでもだというのだ、例えカレーよりは弱くとも。
「美味しいことは確かでしょ」
「ええ、それは間違いないわね」
琴乃もハヤシライスのことは知っている、知っているだけでなく何度も味わっている。それでこう言うのだった。
「お肉もたっぷり入ってて玉葱とマッシュルームも沢山入ってて」
「栄養バランスもいいのよ」
「隠れたスター選手なのね」
「それも一流のね」
それがハヤシライスだというのだ。
「だから楽しんでね」
「ええ、それじゃあね」
琴乃はこの日はハヤシライスを楽しんだ、その味は確かに見事だった。母の料理の腕もよかったがハヤシライスの味自体もよいが故に。
それでだ、次の日琴乃はプラネッツでの昼食の時に食堂で五人一緒に食べながらそのハヤシライスのことを言うのだった。
「昨日ハラシライス食べたけれどね」
「ああ、あれね」
「ハヤシライスね」
「琴乃ちゃん昨日あれ食べたの」
「面白いの食ったな」
「ええ、カレーじゃなくてね」
ここでもカレーの名前が出た。
「ハヤシライスなのよ」
「意外と美味しいけれどね、ハヤシライスって」
彩夏はたぬきそば、関西風のそれを食べつつこう琴乃に言った。
「あれも」
「そうでしょ、それでお母さんもね」
「それ作ってくれたのね、ハヤシ」
「そうなの、やっぱり美味しいわ」
「うちの食堂にもあるけれどね」
ここで綾夏は壁にかけてあるメニューを見た、見れば普通のカレーライスの横にはっきりとハヤシライスと書かれている。
一応今食堂の中でもハヤシライスを食べている学生がいる、しかしだった。
「ハヤシを一としたらカレーは十ね」
「十よね、確かに」
景子は焼きそばを食べつつ応えた。
「それ位よね」
「カレーは圧倒的ね」
「もうね」
そこまで違うというのだ。
「やっぱりカレーは圧倒的ね」
「王様と呼ぶに相応しいわね」
「というかカレーはそれだけでお店が出来るから」
カレー屋のことだ、まさに日本全国津々浦々に存在している。チェーン店としても定番の一つにさえなっている。
「けれどハヤシライスはね」
「ちょっとね」
「ハヤシだけだとね」
「無理よね」
「カレーみたいにはいかないよな」
四
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