第28局
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「進藤君。saiはプロにならないのではなく、プロになれないのだね?」
「…はい、そうです。saiは決してプロにはなれません。不可能です」
こうして、名人親子と緒方は、ヒカルのミスリードに引っかかった。ヒカルが2年と区切ったのも、おそらく病気がそこまで深刻だと、医師に宣告されているのだろうと。そして、相手がそこまでの病人ともなれば、深く追及することがためらわれるのもまた人情というものだった。
もっとも、佐為が実は幽霊で、ヒカルに以前の記憶があって、しかも佐為が2年後にもしかしたら消えてしまうかもしれないなどと、とてもではないが想像できる筈もなかったのだが。
ヒカルが、佐為と1局でも多く打ちたいというのは紛れもない本心だ。だから、万が一の可能性を考えての、決断だった。少しでも後悔を減らすための。
以前の別れを超えることができれば、もう後はまったく読めなくなる。その時は、佐為とともに先に進むべきだろうと、今は思えていた。プロになるのはそれからでも遅くない。
−いやー、ヒカルって嘘つくのが上手ですよねー。
佐為のつぶやきに、あかりはうんうんと頷き、ヒカルは誰のせいだとの叫びをじっと我慢した。
「…ひとまず、君の事情は理解した。進藤君がプロ試験を受ける際には推薦しよう。…ところで、saiはネット碁なら可能なのだね?」
名人のその言葉に、目をきらりと輝かせたのは3人。アキラと緒方、そして佐為だ。ヒカルは、ひとまず納得してくれたことにほっとしつつも、やっぱりそうなるかと苦笑した。
「…はい。そのこともあって、お話しようと思いました。佐為の都合もあるのでいつでもとはいえませんが、予定を組むことは可能ですよ。佐為も強い相手は大歓迎なんで」
「そうか、私もパソコンを用意せねばならんな。進藤君の師匠であれば、ぜひとも打ってみたい」
「先生のパソコンはオレが御用意しますよ。ふふふ。進藤の師匠か。腕が鳴るじゃないか」
「進藤っ!ボクも、ぜひまたお願いしたい!」
「はいはい。いっぺんには無理だからね。はぁ」
−やった、ヒカル!ほらほら、さっさと予定を決めましょう!
−分かったからおとなしくしてろって!後ろでおまえが騒ぐと気が散るんだってのっ!
その後、はしゃぐ佐為を背負いながら、名人たちとの打ち合わせは進んだ。そして、少なくとも当分の間は、saiに関することはここだけの話にするということで落ち着いた。
話を広めたくないヒカルと、対局機会を減らしたくない名人たちとの都合が見事に一致した結果だった。
目を輝かせてヒカルに迫る男性陣を、女の子二人組は微笑みながら見守るのだった。話がうまくいったとほっとしながら。
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